THE LOST CLUB: Rain e.p.
- By: 森 豊和
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: The Lost Club


Rain e.p.
自主制作, 2014年
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インディー・ポップには失われた過去への郷愁が込められている。ザ・スミスのコンピレーションを聴いていてシーラ・ブラックのカヴァーにぐっときた。モリッシーはガール・ポップを好んでカヴァーする。97年発表のソロ作『MALADJUSTED』を聴くとご時世か、ブリット・ポップ、シューゲイザーを意識したかのような音像にむしろ2014年の今こそ1周回ってOK感が漂う。長野で知り合ったメンバー中心に東京で結成されたバンドTHE LOST CLUBは、そういった音楽的背景を濃厚に感じさせる。
雷鳴のようなフィードバック・ギターが鳴り響く「rain」から始まるこのEPは、日本人が模倣する「雨の英国情緒」としては間違いなくハイ・クオリティー。ザ・スミス等に端を発するポスト・パンク・ムーヴメント、そしてヴェルヴェット・アンダーグラウンドから英国経由で日本に渡来したシューゲイザーの後継者たりうる。彼らは変わった編成で、ギター・ヴォーカルにベース、キーボード、そしてリズムマシーンの音をMPCにサンプリングして手打ちで叩く女性メンバーの4人。2曲目「Posh Boy」は軽快に跳ねるサンプラーのリズムとシンセサイザーの音色が心地よい、ネオアコ・フィーリング全開の思わず踊りだしたくなる曲。しかし《擦り切れたTシャツ》、《硬いパンを食べる》といった歌詞は、若くて無敵だった僕らが月日を経てうつろい疎外されていく状況を想起させる。曲名が90年代に流行ったブランド名と一致するのは偶然だけど皮肉だ。3曲目「Yugre No Sunglass」で轟音ノイズ・ギターがどこか寂しげに響いた後に、静かなミドル・テンポの4曲目「Asamoya No Tani」では《外国の船を探せ》と歌われる。
彼らが探す船の行き先は90年代の英国。さらに遡りモリッシーが憧れた60年代のガール・ポップ華やかなりし頃のロンドン、あるいは70年代パンク黎明期のニューヨークかもしれない。その船に乗りたい。