TheSpringSummer: Pictures
- By: 佐藤 ワカナ
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: TheSpringSummer


Pictures
THROAT RECORDS, 2014年
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聴き終えた時に、すっと力が抜けていく感覚を覚えた。気付かないうちに、楽曲が描き出す情景に同調して拳を握りしめていたようだ。繊細さと力強さを歌のなかに共存させると、こんなにも込上げる切なさを感じる、それはTheSpringSummerが教えてくれたこと。
彼らは結成11年目、大阪を拠点とする4ピースバンド。本作『Pictures』はLOSTAGE 五味岳久主宰のTHROAT RECORDSからリリースされた、初の全国流通盤にして初のフル・アルバムだ。LOSTAGEの録音やミックスを手掛ける岩谷啓士郎をレコーディングに迎えた。前作『stitching everywhere』よりも、楽曲の陰影が鮮やかになり、全ての音がくっきり聞こえるようになった。彼らの楽曲の多くは、細やかに組み込まれた緩急が、叙情的な楽曲の世界観をぐっと広げる傾向にあり、今作で一層引き締まった音のメリハリが立体的に音を聞かせ、私達を楽曲世界へ強く引き込んでいく。
アルバムの1曲目を飾る「船に乗って」は、クリーン・トーンのギターで静かに始まったかと思えば、ハウリングに乗って音が溢れ出す。力強く、それでいて細やか。波打つようなドラムビートが大海原を描き出す。そしてサビで全てを解放し、ここには何もないから先へ行こうと高らかに歌いあげる。躍動する曲に始まり、多彩に展開する今作だが、特筆すべきは10曲目。ラストを飾る「end roll」だ。彼らの最大の武器である、込上げる切なさがめいっぱい詰め込まれている。ギターのアルペジオが優しく響くメロディーに佐々木 陽平(Vo, G)の声が溶け込んでいく。そこからクレッシェンドをかけ、力強さを増してサビを迎える。
“戻れない 僕は 今も 繰り返す 偽りを 今も”
と、感情のままにかき鳴らされた音に乗せ力強く歌い上げる。そして、またギターの音が静かに鳴らされ、余韻を残し、『Pictures』の幕を閉じる。
始まりの曲も終わりの曲も、誰もがふと感じる喪失感と、それを不器用ながらに受け入れて進もうとする姿勢を描き出す。それは、いつの時代のどんな人の日常にも必ず潜んでいて、彼らは変わらずそれを描いてきた。『Pictures』は、まるで自分の影のように、立ち止まるときも歩み出すときもそっと傍にある、そんな作品だ。