【レビュー】トーベヤンソン・ニューヨーク『Someone Like You』

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自戒なのだが、シャッグスやヴァセリンズを例に取り、演奏の下手さを安易に抽出してバンドを評することがよくある。

トーベヤンソン・ニューヨークはとにかく歌が下手だ。下手すぎて曲の良さも、初期衝動の輝きも伝わってこない。何やら漫画家やデザイナーなど、東京周辺のセンスの良さそうな奴らが集まって組んだお遊びバンドらしい。そのハイセンス仲間のツテを使って昨年末にファーストアルバムまで作り上げた。ライヴをすれば会場が満員になるそうだが、こんなバンドを観たがるとは、世の中にはなんと「センス」好きな人間の多いことだろう。

と、下手さを先行させて筆を進めると、可愛さ余って憎さ百倍。如何せん悪口になってしまう。はたと冷静になり聴き直してみると、アルバムを通して表現されている彼らのJ-POP愛とその革新性に気付かされる。

軽快なカッティング・ギターで始まるM-2「Party Time」では「Brandnew Day」や「Party Time」など既存のワードで歌いつつ、「Facebook、Tumblr、Twitter」、「KANEKUREとかちょっとうけるなーw」といった今までにないネット用語を挿入している。勢いあるギター・ポップM-10「カセット」は渋谷系へのオマージュか。「教えて 聞いてみたいのよ 90’sの恋の色」という歌詞が印象的だ。M-11「そばが食べたい」では、曲調に不似合いな「そば」という言葉を軸に、ソウルからサンバへと雪崩れ込む。実はどれもこれも機知に富んだ曲ばかりだ。

これらの佳曲が、歌の下手な半素人集団によって作られているという所がポイントだ。現在J-POPと呼ばれるシーンの中には、先人達への敬愛も忘れ、簡易な音楽ソフトで作った大量消費の電子音も多い。一方トーベヤンソン・ニューヨークは、音程補正もそっちのけで対極の場所から音楽と向き合っている。その姿勢を鑑みると、本作は現在の音楽シーンを鮮やかにぶち壊す強力な一枚と位置づけることもできる。そして、そこに浮かび上がる音像は、シャッグスでもヴァセリンズでもなく、今のJ-POPだ。

Author Profile

二宮 大輔新聞社アルバイター
1981年愛媛県生まれ、京都育ち。大学卒業後、ローマに留学。帰国後、イタリア音楽専門誌MusicaVitaItaliaでコラム執筆。京都ドーナッツクラブで映画字幕を制作。フラフープスでバンド活動。