【レビュー】Vampillia『my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness』
- By: 増澤 祥子
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: Vampillia


my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness
Virgin Babylon Records, 2014年
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清廉さと禍々しさとが行き来するところに美しさを感じる。そんな美意識を仮定し、私は勝手に共感している。大阪の10人(?)編成“ブルータル・オーケストラ”Vampillia。初めてライヴを観た際すぐに音源を求めたが、演奏された曲が全く製品化されておらず愕然としたもの。アルセストの招聘をはじめ、魅力的な企画を多々開催してくれたおかげで、私はこの2・3年、彼らを観る機会に何度も恵まれた。その間ずっと演奏されていた曲が、やっと手元に。
シガー・ロス等が使用するアイスランドのGREENHOUSE STUDIOで制作・録音された本作。スタジオのオーナーでビョーク他を手掛けるヴァルゲイル・シグルズソンと、今年自身も素晴らしい新作を発表したベン・フロストがプロデュース。現地の聖歌隊や弦楽四重奏も招いて土地の空気を含みつつ、Vampilliaの基本形を上手く提示している。
冒頭の表題曲から、優しいヴァイオリンとピアノの調べに、スモークがたちこめるように浸食するノイズの不穏。普段ライヴではツジコノリコの歌は無いが、歌詞によって物語の導入が鮮明に。日常の中の歪みから、ほの暗い夢に攫われていく。クワイアや演劇調のコーラスとグロウル。悲鳴のような弦と地鳴りのようなドラム。物悲しい旋律と暴力的な轟音、時には軽妙なメロディも。目まぐるしく情景を変え、幕が転じていく。ギターとドラムの遊び心と凶暴さが鮮烈な「hiuta」など、一曲に詰め込み過ぎとも思える濃度だ。
ただ、荒々しい場面さえも質感がどこか温かいのが印象的。例えばブラック・メタル特有の冷たさなどは感じない。それは悪夢の美しさを魅力的に描いた結果のようにも思える。シガー・ロスを思わせる、眩しい澄んだ冬の朝のような「von」で夢から目覚め、物語はラストの「tui」へ。元スワンズのJarboeが妖しく歌うこの曲は、エンドロールのようでも、再び愛する夢魔に誘惑されているようでもある。
本作では、今Vampilliaが是とする世界の入口をすっと一気に体験できる。彼らは既に、次々と異種の物語を作り出している。いつか共感の及ばないものへ変容する可能性すら想像する程の自由さで。柔軟に貪欲にどこへでも飛べるそんな彼らの、基地となる1stだ。