カワイイをありにしたアンカフェの革命~OL兼業ライターのひとりロクサミ(仮)Vol.5

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本稿は、今年のKANSAI ROCK SUMMIT(通称ロクサミ)が新型コロナウイルスの影響で中止になったことを受け、出演予定だった81組のヴィジュアル系(以下V系)バンドを紹介しようと企画した短期集中連載です。

前回、V系では2016年頃から“メンヘラ”がトレンドで、シドの人気曲「妄想日記」のカバー企画がその契機ではないかと述べた。
とはいえ、現行のV系シーンが決して“メンヘラ”一辺倒というわけではない。そこはやはり、軽やかに雑多な音楽をかじる雑食さが魅力のV系だ。“メンヘラ”とは逆の、ひたすらに明るく、楽しいを届けるバンドもたくさんいる。

そして、このようなバンドを目にするたびに、私は、あるバンドを思い起こす。アンティック-珈琲店-(以下アンカフェ)だ。

2000年代、V系シーンは多様化が進んだ。DIR EN GREYをはじめ、ガゼットやlynch.らが、とことん重く、とことん激しくを追求する一方で、シドやアリス九號.、ナイトメア、バロック、雅-miyavi-らは、ダークさばかりを強調せず、見た目も華やかに、和テイスト混ぜたり、ヒップホップを取り入れたりと、90年代の黄金期に確立されたV系の価値観を、どんどんアップデートした。そうやって、さまざまな個性を持つバンドが切磋琢磨する様はまさに百花繚乱で、彼らはネオヴィジュアル系と呼ばれた。

中でも、現在のシーンを見渡したとき、アンカフェの存在は特別な影響力があったのではないかと思える。

アンカフェが鮮烈だったポイントは主に2つある。ひとつめは、当時のV系シーンはツーバスで迫力のあるドラムが主流のところ、アンカフェはバスドラ4つ打ち、ハイハット裏打ちのダンスロックに軸足を置き、更に、シンセの音色を多用して、ダンスミュージックを鳴らしていた点。ちょうど、国内のロックシーンでも、Base Ball Bearが2006年に「ELECTRIC SUMMER」をリリースし、その後、テレフォンズらを筆頭にダンスロックがじわじわと席巻し始める頃であり、閉じたシーンと思われがちなV系でも、国内のロックシーンと関連する動きがあったことは大変興味深い。
そして、もうひとつ重要なのが、V系において“カワイイ”という価値観を“あり”としたことだ。
2000年代は、V系が、アニメやマンガなどのように日本独自のポップカルチャーとして、海外から注目されはじめた時代でもある。実際に、ライブ会場ではいまだに外国人は高確率で見かけるし、アンカフェも、2008年と2009年にヨーロッパをはじめ、海外でのライブを経験している。加えて、彼らのファッションやメイクは、Kawaii文化とも親和性が高く、自らも『原宿参部作』や『キング オブ 原宿ダンスロック』など、“原宿”をキーワードとして強く打ち出してきた。これまで、どちらかといえばダークで怖いイメージのほうが強かったであろうV系に、カラフルで元気で少し奇抜な、“カワイイ”という価値観を持ち込んだことで、V系の枠をぐっと拡げたように思う。

というわけで、今回は、アンカフェ以降、V系シーンに見られるようになった、ダンスロックを取り入れたり、カラフルでポップな“カワイイ”感性を持つバンドについて紹介したい。

Awake

2011年に始動した4人組。アンカフェが2010年に一度活動休止をしているので、結成初期の頃は、ポスト・アンカフェの期待を背負っていたことと思う。本作はまさに、アンカフェからの流れを受け継ぐ、明るく楽しいダンスチューン。ヴィジュアルも目が覚めるようなカラフルさで、“カワイイ”という言葉がピッタリ。

GAM!

2019年始動。2020年1月にガク(G)が加入し3人組になった。イントロの賑やかなシンセと、歪まくりのギターからは、なんだかものすごくやんちゃそうな印象を受けるが、Aメロではツイストのビートで軽快に、Bメロではハードコア、そしてサビでアッパーになるという、展開が盛りだくさんの1曲。

GTB

2018年に活動を始めた、Takeshi (ex.カメレオ) とseiya (ギガマウス)によるユニット。メロコア、青春パンク、ヒップホップをのみこんだミクスチャーサウンド。序文で、2000年代にシーンに登場した、ネオヴィジュアル系バンドたちは、90年代のV系の価値観を、どんどんアップデートしたと述べたが、彼らは、そのネオヴィジュアル系を経て、さらにV系とはこういうものというイメージを壊し、新しく塗り替えているよう。

JILL-PRINCE

<大阪発王子様系バンド>を自称する2016年結成の4人組。トランスを盛り込んだダンスロックと思いきや、ベースはスラップ奏法で、サビではドラムが高速ツービートを炸裂させ、ラップパートもあったりと、聴きどころがたくさんある1曲。歌詞は、最初から最後までポジティブで熱いラブソング(ただしMVは一癖あり)。

Free Aqua Butterfly

2013年始動。ベースの早希が女性で、V系のクールさとアイドルの可憐さのハイブリッドのようなバンド。陽気なサンバ調だったり、派手なシンセが効いていたり、ご機嫌で元気がいい。ツインボーカルで、早希がボーカルをとるパートもある。女子がメンバーにいることをうまく活かし、V系としての新しい可能性を示している。

Smileberry

<Super Smile Rock!!-泣き虫退治->をコンセプトに掲げる、2015年始動の現在4人組。メンバー全員に華のあるバンドだが、見た目の良さに甘んじず、演奏技術を磨き、“魅せる”にも、“聴かせる”にも長けているところは、アリス九號.を思い起こす。ラップをするなどミクスチャーを意識したアプローチもあるが、基本的には、コンセプトのとおり、リスナーの背を押すようなメッセージ性のある歌を聴かせる曲が魅力。

HOWL

2018年に始動した4人組。V系で踊れる曲というと、4つ打ちか、あるいは、ハネるリズムのシャッフルビートをよく耳にするが、本作は本腰の入ったディスコファンク。とはいえ、哀愁ただよう旋律に切なげな歌、ギターも、カッティングだけでなく、間奏では歪んだ重いリフを鳴らしているところは、やはり、一筋縄ではいかないV系らしいと言える。

麗麗

名古屋城の金のしゃちほこに見立てたキンキラ衣装が示すとおり、紛うことなき名古屋のバンド。2008年から活動している4人組。ダンスロックに、曲によっては琴や雅楽のような音色を混ぜ、歌詞では名古屋愛を炸裂させる。コンセプトからブレることなく完遂しているところが痛快だ。

the Raid.

2011年7月に始動した5人組。その時々のシーンの流れをうまく取り入れる柔軟さがあるバンド。2016年にオリコンのインディーズチャートで1位を獲得した「Re:born」はメタルコアを意識したサウンドだったし、ここ数年はメンヘラを彼らも取り入れている。ただ、どのようなトレンドを取り入れたとしても、天に届きそうな伸びやかなギターソロや、疾走感を生むシンコペーション、哀しみを帯びたメロディなど、ザ・V系なパートがRaid.の曲には必ずちりばめられており、そこから、彼らがキッズの頃にV系の何に憧れ、今もなおどこを魅力に思っているかを感じ得ることができる。

アスティ

2018年本格始動した4人組。「あたおか」「ぴえん」「メンブレ」「ぽまえしか勝たん」などなど、若者言葉を多用した歌詞が強烈なイパクトを放つ。今、流行っているものや、自分たちのアンテナにひっかかったものをサクッと取り入れてしまう軽やかさ、身軽さは、V系の大きな武器だと思う。

 

参考
大島暁美 監修/『VISUAL ROCK PERFECT DISC GUIDE 500』/2013年8月7日発行/株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント
柴 那典/フェスシーンの一大潮流「四つ打ちダンスロック」はどこから来て、どこに行くのか?/Real Sound/2014年11月10日 https://realsound.jp/2014/11/post-1730.html

◆小川あかね
セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。
akane.o1218*gmail.com (*=@)
Twitter:@akam00n

 


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