【コラム】大阪キタの北っ側。今変わりゆく街、中津を行く。「シカク」、「ハワイレコード」訪問記

大阪中津「ハワイレコード」
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大阪中津シカク店内の書籍コーナー
大阪中津の同人誌やおもちゃなど自費出版物を扱うセレクトショップ「シカク」

近年再開発が進んでいる大阪キタエリア。梅田であればグランフロント・JR大阪駅、毎日放送本社、また中之島地区ではフェスティバルタワーを中心に新しいオフィス・商業ビルの建設が進んでいる。同じくキタでは違った形で再開発が進み、話題を呼んでいる地域がある。それが阪急梅田駅から東に新御堂筋を挟んで向かい側の中崎町だ。戦時中の大阪大空襲の被害に奇跡的に遭わなかったこのエリア、当時の風景そのまま空き家になった民家を若いクリエイターたちに安く貸す“長屋リノベーション”の流れが10年ほど前から起こり始めている。今では古い建物を利用した個性的な雑貨屋・カフェ・古着屋などが立ち並ぶ、キタ有数のおしゃれタウンになりつつある。

そう、今“梅田よりも北のキタエリアが熱い”。生まれてこの方22年、大阪生まれの大阪育ち、この春上京してみたものの、当時の遊び場キタが恋しい筆者がそう思い立ち、この度帰省の際に、ぶらり自転車で「音楽のスポット」を2軒探訪してきました。今回立ち寄った街は阪急梅田の一つ手前の駅、中津でございます。

立ち寄ったのは土曜日のお昼過ぎ。中崎町とはまた違ったレトロな下町の臭いがする。阪急梅田の一つ手前の駅なのだが、阪急京都線は全線通過してしまうので筆者含めて淀川以北の阪急京都線ユーザーにとっては盲点的になじみの薄い街なのかもしれない。ガード下の倉庫街は昼間でも真っ暗で、大阪で有数のリアル・アンダーグランドな風景だ。一方でカジュアルなバルや居酒屋・カフェも徐々に増えており、閑散と混沌が入り混じる今も発展途上なディープ・スポットである。

中津商店街のアーケードに入る。シャッターを閉めている店も多く、極めて静か。道幅が狭いこともありこちらも少し暗い。商店街のちょうど中心付近に位置している店が今回の目的、インディーズ・サブカルチャー・ショップ「シカク」である。

大阪中津シカク
シカク
場所:大阪市北区中津3-17-12(中津商店街の真ん中あたり)
営業時間:毎日午後2時~8時ごろ(定休日:火水)

主に同人誌やおもちゃなど自費出版物を扱うセレクト・ショップ。ネコがいるために入口には柵があり、恐る恐る開けて入ると右手にはミニコミの本棚、左手にはその時々のイベント・スペースとなっていて今の時期は小規模フリマをやっていた。先客には美大の学生が一人、店の人と談笑をしながら、フリマコーナーで1,000円の中古レコードプレーヤーを買おうとしていた。

CDコーナーを除くとトーベヤンソン・ニューヨークや中山双葉など少数精鋭。この店に来た目的でもある播州汚泥フォークを自称するSSW、カニコーセンの2nd『Everyday People』を無事に見つけ、購入。音楽・漫画・小説・評論と全てのサブカルチャーにおいて時流を追わないインディーズ・アーティストの活動を応援する拠点としてここを切り盛りする店長の巴さんは、出張販売、ポッドキャスト、イベント出演など幅広く活動しており、京都在住のバンド「ほおづえ」のプロデュースも行っているという。HPに情報はほとんどなく、ライヴ活動も数少ないが、サイケでオーガニックなカントリーフォーク・サウンドはキセルやゆーきゃんにも通じる「京都らしさ」を感じる。

中野ブロードウェイからさらにセレクトしアットホームにしたような雰囲気。京都にはガケ書房・恵文社があり、大阪にはここシカクがある。

大阪中津「シカク」の店内風景
大阪中津「シカク」の店内風景

シカクだけでも十分濃厚な時間であったが、巴さんに「お隣のハワイさんには行きましたか?」と進められ2軒隣に位置するセレクト・レコード・ショップ「ハワイレコード」へ。小さなお店にぎゅうぎゅうにレコード、CD、そしてやっぱりここでもネコ。ミックステープレーベル、ハワイレーベルを運営しており、荒井由実『ひこうき雲』や山下達郎『SPACY』を完全に模したミックステープが目を惹く。新譜のコーナーには淺野大志やスカート、Shin Rizumu、柴田聡子など現代の街をポップに描くSSWの音盤を取り揃えている。ジャンルレスではあるかしっかりとした軸が感じられ、関西ビートシーン、シティポップ、フォーク、A.O.R、渋谷系~90’s J-POPなど現在のポップ・ソングが形成される要素のツボを押さえているラインナップである。

この店を運営しているのはハワイレーベルからDJとしてミックステープを制作・リリースしているdj boyfriendとbabeefunkのご夫婦。自らプレイヤーとしてターンテーブルを回す一方でライヴイベントの企画なども行っている。特にShin Rizumuには早くから目をつけ、先ごろ8月31日に中津HOSHI-JIRUSHI行われたレコ発ライヴ「夏休み最後の日」では演奏だけでなく、トークコーナーを設け高校生の彼に喋らせたり、観客からお題をもらってその場で作曲・公開レコーディングをするなど挑戦的な企画を行った。さらに今年から「音楽と視点」というトーク/ワークショップ・イベントも立ち上げている。

こちらでは名古屋のガットギターと歌による男女ユニットEttの3rd『無茶の茶』を購入。筆者がフォーク好きということを伝えるとdj boyfriendさんにセレクトしていただいたものだ。2001年のオープン以降、中津の地からカルチャーとしての音楽を発信している店であった。

異様な雰囲気を漂わせるキタの北、中津。昨年11月には20代の若者2人が声を上げ、都市型フェス高架下音楽祭が開催され8otto、イルリメ、踊ってばかりの国らが街全体を使ってライヴを繰り広げた。一見時代から取り残されているかのように見える下町からこそ、残っている店、新しく出来た店は独自の色を持ってたくましくもゆるく気ままに顕在出来るのである。見方を変えれば、西成・今宮あたりの雑多な雰囲気、中崎町のおしゃれなリノベーションが起こっている勢い、阪急随一のターミナル駅淡路周辺の喧騒から離れたベッドタウンの要素が合わさったようなハイブリッドな街ともいえるのではないだろうか。

週末金土に梅田に来た際には少し足を延ばして、今も変わりゆく街、中津を訪れてはいかがだろうか。ええ街並み、ええ音楽、ええ本、ええ人、あらゆるおもろいものが、まだ整理もされずその辺に転がっている中津の魅力を知ることになるだろう。

大阪中津「ハワイレコード」
ハワイレコード
場所:大阪市北区中津3-17-11(シカクの2件隣)
営業時間:15時~20時(金曜日、土曜日のみ営業)
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