

UNO
SPACE SHOWER MUSIC, 2015年
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昨年、本サイトki-ftでのベストアルバム企画にて「新世代ソロミュージシャンによる時代の幕開け」と自分の項を銘打ったが(ki-ftレビュアーが選んだ2015年ベストディスク)、藤岡さくらやNakamuraEmi、中島孝とソロミュージシャンの台頭が今年も引き続き著しい。特にローホーの全国デビューの衝撃は先日ここに書いたレビューの通りだ(【レビュー】大阪文化の伝統を現代にリバイスさせるミクスチャー・ヒップホップ | ローホー『Garage Pops』)。
そんな新世代が続々登場する中で一昨年全国デビューを果たしたReiという存在は不思議である。若干23歳でありながらすでに新世代の空気はなく、まるで10数年前からお馴染みの存在のような、一枚看板の安定感とオーラがある。
ざっと経歴を見ておくと、彼女は兵庫県伊丹出身のブルース・シンガー&ギタリスト。幼少期をフランスとニューヨークで過ごし、帰国後も関西のインターナショナルスクール、音楽学校に通いながらギター、ブルースに出会い音楽活動を続けていった。そして2014年、プロデューサーにペトロールズ長岡亮介を迎えミニアルバム『BLU』でデビュー、続く2015年にはセルフプロデュースにて2ndミニアルバム『UNO』をリリースした。今年に入ってからは初のワンマンライヴを成功させ、その後ジャマイカの〈Java Jazz Festival 2016〉で東京スカパラダイスオーケストラと共演、そのままテキサスに渡りSXSWに出演をするなど世界を含めて活躍の幅を広げている。また驚くべきは近年の共演アーティストだ。前述のスカパラに加え、サンフジンズ、白井良明、今年の〈ARABAKI ROCK FESTIVAL〉ではHEATWAVEと共演が発表されるなど、日本ロック界の重鎮どころとマッチメイクを挑んでいる。
そんな一気にエリート・キャリアを駆け上がっているReiの特異なブルース・サウンドの成り立ちについて考察していきたい。
まずは23歳の彼女とブルースの関係性を見ていこう。インターナショナルスクール時代出会ったエリック・クラプトンからクリームにさかのぼったことで、そのままブルースに傾倒することとなった。主に自身に影響を与えた人物としてジョニー・ウィンター、ブラインド・ブレイク、JBルノア、ブラインド・レモン・ジェファーソン、ジェイムズ・コットン、ホット・ツナ、ビッグ・ビル・ブルーンジーといったブルース・レジェンド達を挙げており、自身のレパートリーに取り入れているものはYouTubeの公式チャンネルでも多数聴くことが出来る。
ほかの同世代の国内ブルース・シンガーやバンドの大多数はビートルズや3大ギタリスト(エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ)、ジャニス・ジョプリンなどいわゆる60年代後半以降のロックが周知された以降のブルースや、ニルヴァーナら90年代のグランジ、ホワイト・ストライプスなど00年代のガレージロック・リバイバル、国内ではTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYなど“ブルース・ロック”に影響を受けていることが多い。現在注目を集めているGLIM SPANKYやWalkingsらも、そんな“ブルース・ロック”の新世代旗手であろう。しかしそれに対して、彼女はそれ以前のルーツ・ブルースに根っこを置いているところが大きな違いだろう。
そこに至ったことを含め、Reiのアイデンティティの形成において、関西で青春期を過ごしたことは大きな要因となっている。
関西といえば70年代に、憂歌団、ウエスト・ロード・ブルース・バンド、上田正樹(及びバッド・クラブ・バンド、サウス・トゥ・サウス)、村八分らによって日本のブルースが最初に確立、およびムーヴメントとなった土地で、その先駆の多くは今も関西にて現役で活躍している。またこれ以降、日本においてブルースが大きく独自の発展を遂げたり、盛り上がりを見せた事例は見受けられない。
そのような中、Reiは2000年代後半から大阪のブルースシーン界隈で活動を開始しており、木村充揮、島田和夫(共に憂歌団)、おくむらひでまろ、天野SHO、歌屋BOOTEEら20〜40歳以上離れたブルースマンたちと共演し、ギターの腕を磨いてきた。2009年には当時17歳にして関西ブルース、フォークシーンの総本山的イベント〈祝春一番〉にも「春一BLUES☆SPECIAL JOINT☆」のメンバーとして島田、天野、シバらと共にステージに立っている。またこの頃の映像は2007年NHK-BSプレミアム『大阪モラトリアムブルース』という番組に残っている。当時14歳のReiが学校からギターを持って下校するところから始まり、大阪の街の中で演奏する姿を軸に、若者が夢を追いかける姿を取材した映像が、オムニバスで流れるドキュメンタリーとなっており、この頃から天才ブルース中学生として注目されていたことが分かる。
そんな背景を踏まえた上で、これまでに発売された『BLU』、『UNO』に収められている楽曲を聴いてみると、全くと言ってよいほど関西ブルースの血が感じられないことに驚く。テクニカルなギターフレーズは存分に堪能できるが、あくまでメロディを軸にしたバンド・スタイルのポップミュージックであり、ブルースにとって密接な要素である円熟味も当然ながら皆無のフレッシュで快活なサウンドだ。余談になってしまうが、以前筆者の住む高円寺のブルース好きやバンドマンが集まるバーにて居合わせた40〜50代のおじさんたちと一緒にReiを聴いたことがある。するとYouTubeでのライヴ動画にはそのスキルと選曲に若さと容姿も相まって、誰もが舌を巻いた。
しかし次に「Black Banana」や「JUMP」といったオリジナル曲のPVを流すといささか盛り上がりが収まってしまい、「今風のサウンドもやるんだね。」と言うのみで再びJohn Lee Hookerの「BOOM BOOM」カヴァー動画に戻ってしまった。そう感じてしまう酒場のブルースおじさんたちの感想も最もなところで、彼女は決してオールド・スタイルのブルースの継承という概念はなく、あくまで2010年代後半に鳴らすべきとReiが考えたサウンドの一要素に過ぎないということであろう。
関西ブルースの血を継承していない点も、当時からブルースマン達とは対等の関係性で自らフロントに立っており、決してボーヤ的な扱いではない。憂歌団らが70年代にブルースを自分のものにするために、日本語かつ大阪のノリを持ち込んだと同じように、Reiも1から日本で鳴らすブルースを捉えなおし模索していったと考えると納得できる。その姿勢は、現在の大物たちと渡り合える安定感とオーラに繋がっているのだろう。
また日本においてはフィメイル・ブルース・シンガーそのものが珍しく、Reiのスタイルはさらに新規性を持って響いてくる。前例としてはマダムギター・長見順くらいではなかろうか。その上での英語の堪能なバウリンガルヴォーカル、キュートな容姿、アメリカン・ポップ・ロックをも抱擁した楽曲というポップ・アイコンを引き受ける姿勢は10年前の木村カエラが登場した時のような求心力を感じ、そのセルフプロデュース力の高さも今の破竹の勢いの一端を担っている。
しかし彼女は決してポップに染まっているわけではないことはライヴを見ると明らかだ。私が初めて見た昨年の下北沢サウンドクルージングでのライヴではアコギをシバきあげながら、足元に置いたバスドラを踏み、ビートを刻むというストロングスタイルで演奏を行っており、ラストの「Black Banana」はバンド演奏の音源とは違い、アドリブソロも利かせたオールディーズ・ブルースになっていた。ライヴを見るたび一つとして同じ演奏がなく、重ねるごとに様々なアレンジを加えていくところにはReiの生粋のブルース・シンガーであることの自負を感じる。
クリームがロバート・ジョンソンの「Crossroad」を取り上げたことに対し、その当時の最先端のロック・バンドの音として表現したことに衝撃を受けたとインタビューで語っていたRei。正しくその衝撃を現代で巻き起こそうとしているそのコンセプトは、彼女自身の素養・実力を最大限に活かすスタイルでもって全く非の打ちどころがない。しかしまだまだ伸びしろのある23歳、発展途上だ。同世代のロック・キッズから前述の酒場のブルースおじさんたちも丸ごとのめりこんでしまうような作品を生み出した時、Reiのネオ・ブルースは本当に完成するのだ。

BLU
ENNDISC, 2015年
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