【インタビュー】花泥棒の稲本裕太に聞く最新作『Yesterday and more』とボロフェスタ

花泥棒のフロントマン稲本裕太
Interview
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花泥棒のフロントマン稲本裕太
花泥棒のフロントマン稲本裕太

京都出身、今は東京在住の花泥棒のフロントマン稲本裕太(Vo, G)。前回ki-ftで話を聞いたのは2014年8月。当時は前体制最後の作品『daydream ep』を発表、たった一人で上京し、まさにゼロからのスタートという時の取材となりバンド結成時から上京に至った心境を聞いた。そこからちょうど2年、バンド体制を確立させ制作しついに『Yesterday and more』を発表。本作についてはすでにレビューが上がっているのでそちらを参照していただきたい。今回はそんな新作の話はもちろん、現体制への考えや〈ボロフェスタ〉についてなど、8月の暑い中、新宿まで自転車をころがして来た稲本に大っぴらに話してもらった。(インタビュー:峯 大貴

当たり前だけど違う考え方の人が集まって何かを作るのって大変だなと再認識した

──6月の主催イベント〈DOWN TOWN Vol.2〉@下北沢THREEで久々に花泥棒のライヴを拝見しましたが本当に素晴らしく、現体制の調子の良さが伺えました。今回2年ぶりリリースとなった本作『Yesterday and more』は、京都の時代から見ていた私にとっても“やっとでた~”と、とても嬉しかったです。このタイミング・時期でのリリースというのはようやくサポートメンバー含め、体制が固まったからということでしょうか?

稲本:イラミナタカヒロ(Ba)が加入して、ギター(新間雄介)とドラム(つなかわ和行)がレギュラーサポートになり、同じメンバーで出来るようになってきたのが昨年の冬頃で。そこからいっぱい曲を作れるようになってきたというのが大きいですね。上京してからこれまでのサポートがライヴごとに入れ替わり立ち代わりしている時って曲が増やせなくて。今ある曲を合わせることで精いっぱいになってしまうし、それだけで練習の時間がかかっちゃっていたので。固まってからようやく最近になってライヴのオファーもよく来るようになって本数も徐々に出られるようになって、最低限やれるようになってきた感じですかね。

──ki-ft的には上京後から昨年まで【花泥棒 稲本裕太のザ・東京砂漠】(2014年11月~2015年7月)いうコラム連載をやっていただいていました。その頃の稲本さんの書いた文章を読んでいると、やりたい音楽やビジョンは明確にあるのに今は環境を整えるに精一杯である状況にモヤモヤしていたのかなという印象だったのですが。

稲本:うすーく終わってしまったあの連載ね、申し訳ございませんでした(笑)。やっぱり新しい曲が増えないというのがバンドとして意識があがらなくて、今ある曲でもパフォーマンスとして出来ることは限られている。まさにおっしゃる通りでそんな感じやったなー。だからこそ今の体制でのライヴがいい感じで、彼らもしばらくは継続できるよとなった時に、もちろんサポートではあるけどやっていけるなと思った。

──つなかわさんや新間さんは花泥棒の音楽と合ったということですか?

稲本:つなかわさんは音楽の趣味も自分とめっちゃ近いんやけども、新間は立命館大学のサークルの後輩でやりたいバンド像とかがめちゃくちゃ近いって訳ではない。だけど随分器用なギターを弾くやつで。二人とも今は自分のメインと呼べるようなバンドはやっていなかったりたくさんライヴはしてないって状況で、加入してほしいって言っているんだけど将来見据えていて、サポートメンバーまでかな、と渋られている状況。もちろん音楽性や腕も必要だけど自分の周りにいる気の合う人が一番ですね。前のメンバーが抜けてから長らくメンバー募集していて、もちろん今も募集の状態ではあるんだけど、前までみたいに大々的にいう必要はなくなったなとも思っている。

──女性コーラスもですか?

稲本:あ、それは今もほしい(笑)。いっそのこと全曲男女どちらも歌うやんって曲も作りたいんやけどね。

──Special Favorite Musicみたいですね。当初サポート的立ち位置だったラビンユーさんが、近作ではメインボーカルの曲もあって、フロントマンのクメさん歌わないみたいな。

稲本:自分もそういう形態が理想かな。めっちゃいいボーカルがいれば、自分が歌う必要もないと思っています。歌いたい気持ちもあるけど、その人が入ることによってバンドが良くなるのであればそっちを優先したい。

──ではサポートメンバーも固まりましたが、その前には昨年イラミナタカヒロさん(Ba)は正式メンバーとして加入しました。お二人でバンドの中の役割分担とか変わりました?

稲本:これまでは全部自分一人でやってきたから、雑務的な部分が一番大きいかな。メール返信、物販管理、通販発送……。バンドの見せ方とかスケジュールの組み方とか考えて動くってのを1人でやっていたのを、「考える:稲本」と「動く:イラミナ」で分けたような感じ。

──曲作りやライヴにおけるイニシアチブの取り方は変わりました?

稲本:曲作りではメンバー全員がどんどん意見を出していって、その中で誰かがイニシアチブをとって取りまとめていくというのがあるべき姿だと思うんだけど、それについて言えばまだバンドの状況は弱いと思っている。まだ僕がほとんどを練ってる域を抜け出してないから、もっと(いい)アイデアを出してほしい。『Yesterday and more』についてもフレーズというかアレンジの指針は僕が伝えて“こんなフレーズがいいから考えて”という指示を与える形で作ったけど、それだとまだ全部自分の想定内にことが進んでしまっているところが否めないとは思っています。

──もう今イメージとしては稲本・イラミナで二人三脚やっている感じですよ。では稲本さんがイラミナさんに影響を受けた部分はありますか?

稲本:好きな音楽はだいたい近いけど、スタンスが自分はインディー寄りで、彼の方がセルアウト寄りなところがあって。「それはださいと思ってたけど確かにそういうセルアウトな見せ方の工夫は必要かも」という自分の発想にはなかったことを彼が言ったのは覚えている。

──でも稲本さんもずっとセルアウトしたいって言ってますやん。

稲本:自分が目指すセルアウトは“サウンドとしてわかりやすさの追求”っていう部分かな。スピッツみたいな誰が聴いてもわかりやすくよい! と言える「ポップだけど、実はインディーロックのエッセンスが放り込まれている」というような。彼が言っているのは立ち振る舞いの部分で。今だったら花泥棒ってどんなバンドだと検索したときに目に入ってくる情報のキャッチーさを意識しているという感じ。あと、当たり前だけど違う考え方の人が集まって何かを作るのって大変だなと再認識したかな。ここは大人にならんといかんなとか。

──なるほど。ではイラミナさんやサポートメンバー加入によって、曲作りの進め方や方法という面では変わりましたか?

稲本:今まではスタジオで自分が弾き語って、ギターはこう! あんなバンドみたいな! って口頭で伝えていました。でも東京に来て、iPhoneのGarageBandっていう音楽制作ソフトを手に入れてからついに自分もデモを作るようになりました。そのデモをみんなに送ってこれを元にって伝えるようになった。

──それってどこまで作りこんで渡しているんですか?

稲本:自分の歌・バッキングギターと、ギターリフはこんなのが欲しい! というところとベースを簡単に入れておくくらい。ドラムは打ち込み方わかんないからなし。バンドとしてどんな感じの雰囲気になるのかを伝える最低限の作りこみですね。本心で言えばそれを弾けというよりはこれを元に、“え? それは思いつかなかったやばいな!”ってのを考えてきてねって思いがあります。

ポップ・ソングって“まとめる”ってことが重要

──なるほど。本作でいうと目指した音楽の方向性はありますか? 若干ローファイな音作りだなとは思いましたが、曲調やフレーズはどこをとってもこれまでの花泥棒と変わらずひねくれたポップサウンドで大変うれしかったです。

稲本:サウンド面で言うとたまたまそういうモードだったんだけどちょっとノイジーな部分を意識した曲が多いです。でも曲作りの段階でそれを想定していたわけではなく、アレンジ・ミックスの段階で結構詰めてこの仕上がりになりました。録音とミックスはあゆみくん(The Chimney SweeperのAyumi Nakamura)にお願いして、“ここに鍵盤入れてみたら? うちにあるよ”みたいにかなりアドバイスをもらっていい仕事をしてくれた。そのあゆみくんとの作業がさっきも言った、自分が求めている「こうしたら? おぉ! いいじゃん!」となる、バンドのあるべき姿かなとめっちゃ思いましたね。今回で言うと「Yesterday and more」のイントロとサビのシンセフレーズは弾いているのも彼。

──「Yesterday and more」はちょっとインドっぽくていいですよね。中期ビートルズとかクーラシェイカーみたいで。

稲本:あれは実は前の編成のときからあった曲でインドっぽさも前のメンバーに指示したものを、録りなおした形。でも今回アレンジを再考して、新たにギターフレーズも入れようとしたけどあゆみにそれは余分じゃないかとも言われて。本当に今回のプロデュースは花泥棒 & Ayumi Nakamura (The Chimney Sweeper)というのが正しいクレジットかも。

──本当に片腕的活躍で今回の仕上がりになったんですね。

稲本:実は録音できる仕上がりになっていた曲は何曲かあって、それを全部入れてアルバムのボリュームにする案もあったんやけど、頭の中で並べてみるとバラバラしてバランスが悪くて。一旦今の状態のちょっと早くてノイジーな曲を集めて、次で今残っている曲をアルバムとして出そうという想定で、あえて今回は省いたところもあります。出し惜しみではないけど、今のバンドのモードでしっくりくるものだけで作品にしたいという思いがありました。

──「baby blue」はサニーデイ・サービス オマージュが感じられます。

稲本:曲を作っている時に適当に思いついた歌詞をつけて歌うんだけどパッと“baby blue~”って歌ってしまって、サニーデイもフィッシュマンズも歌っているけど妙にしっくりきたので使いたいなと。「baby blue」がばちっとはまってじゃあいっそ今度はそれに合わしてサニーデイのオマージュみたいな歌詞をつけようということでサビには「恋はいつも」「万華鏡」「baby blue」と3つ並べてやりました。

──稲本さんってそれ好きですよね。「渚」(2013年)での“ゴーだ イルカのフリッパー ギターケースにたどりつくから”に忍び込ませたフリッパーズ・ギターとか。

稲本:そうそう。言葉でサンプリングするのが好きで。気づいた人に言われると「せやねん!」って嬉しくなるような。でもめっちゃサニーデイには影響は受けていて、この前ライヴ見に行ったとき、曽我部さんに話しかけたら、2年前の〈ボロフェスタ〉で一緒になっていたので覚えてくれていて、今回のCDも渡しました。「baby blue」って曲があってサニーデイの曲3つ歌詞に並べていますって伝えたら“ありがたいね~”って気を遣って言ってくれて。気に入ってもらえるといいなぁ。

──そして「ファンタジア」の2番にもピチカート・ファイブの「東京は夜の七時」というフレーズがそこだけ女性コーラスの声でポツンと入っています。

稲本:あれ、元は歌詞だけ引用して1番と同じメロディーで自分が歌っていたんだけど、レコーディングの時にこれもしかして「東京は夜の七時」のメロディーそのままではめこめられるんじゃないかとやってみたらうまくいきましたね。

──この曲は今までの花泥棒のモードに一番近い気がしますね。くるりの「ロックンロール」に通ずるリフでぐいぐい押していって、なおかつ京都感ともいえるどこかいなたさのあるナンバーのように思えます。

稲本:「Yesterday and more」と「ファンタジア」は前のメンバーの時からやっていた曲だから、確かに言われてみればこの2曲はモードが違うかもね。作った時に「ロックンロール」みたいな曲が作りたいなって思っていたから意識しているのも正解(笑)。

──で最後の「カンフー」は前作『daydream ep』での「Sonin Youth in the house」の流れを組むパンクナンバーで。

稲本:この曲は特にミックスでもさらにローファイってところを意識しました。ただやけっぱちってだけで押しまくって曲が終ってしまうような、短くて速い曲を作りたかった。「渚」とか「デイドリーム」みたいな曲やっているのと見た目から温室育ちっぽいバンドと誤解されることも多くて、それに対してめっちゃむかつくなって思いがあって。自分たちの音楽は健全で軟弱な“君のことを思って今日も頑張っているよ”的なものではないということを言いたかったです。

──この曲が1分半と特に短くて、その他の曲も長くて3分半と全編タイトに仕上げてきたなと感じました。

稲本:それはかなり意識した! 年々長尺の曲が聴けなくなってきて、やっぱり短い曲が好き。昔ザ・スミスのジョニー・マーが「3分で収められることが出来なかったらそれはポップ・ソングじゃないでしょ」という内容のことを何かで言っていたのを読んで感銘を受けて、ポップ・ソングって“まとめる”ってことが重要なのかなと考えている。3分超えている曲をやるバンドがダメだとはもちろん思わないけど、その理論が自分にとってはしっくりきて、なるべく収めるようにするのは大事だなと。でも明らかに意識し始めたのは今回からですね。

KBSホールになってからの〈ボロフェスタ〉ってあのステンドグラスのバックが象徴的で、あそこでバーンとやりたい

──前回させていただいたki-ftでのインタビューでは、2014年当時の今面白いバンドとして稲本さんはTHE FULL TEENZを上げていたんですよね。当時ちょうど彼らが『魔法がとけた』を出したり、ショートチューンに取り組んでいた時期に当たります。なので彼らにも今回刺激を受けているのかとも思ったのですが。

稲本:あー受けてる! あそこまで短い曲は考えてないけど、京都から引っ越す直前くらいに出会った彼らや、京都の友達のバンドたちからは、いろんなところで影響受けていると思います。

──私だったらそんな3分間にポップスを収めるというところへのこだわりを持った矢先にTHE FULL TEENZを見たら「先やられてしまった悔しい! 俺もそれ考えていたのに!」って思ってしまうのですが、そんな嫉妬心ではなく、よい影響を受けている存在としてあるのですね。

稲本:そうですね、アウトプットがそれぞれ違うので。嫉妬で言えば昨日never young beachのライヴを見ていて、彼らはバンバン結果も出しているし音楽性も自分たちとは違うけど、色んな洋楽の影響を受けながらも日本語の歌としてやっているバンドという点では近い部分もあると思っていて。そう考えると全ての面でこりゃ敵わんわって思ったかな。改めて全部格上だ~って思った(笑)。もっと頑張らないと。

──でも本作は改めて今の花泥棒のよい名刺になる作品で、ようやく調子づいたことを知らしめる作品であると思います。これを経て今後やりたい音楽や向かう先に想定はありますか?

稲本:今回の曲の並びにはちょっと合わなくて入らなかった曲って音数やフレーズの絞ったスキマのあるサウンドのもので。そんな引き算されたサウンドでかつ、歌がしっかりど真ん中に来ているというような曲をやりたいなと思っています。そこから通じてビーチ・ボーイズみたいなサーフ感っていうのもこれから合うんじゃないかと思っているテーマの一つ。今回の前に出したポストカードシングル『ファンタジア/サーティーワン』に入っている「サーティーワン」でそれをやってみたんだけど思いのほかうまくいって、はまっていますね。

──最後に付帯設問として聴きたいのですが関西音楽メディアのki-ftとしてはそろそろシーズンに入ってきました〈ボロフェスタ〉について。花泥棒は演者として今年4回目の出演が決まっています。演者として〈ボロフェスタ〉のステージはどう捉えていますか?

稲本:1年目は地下ステージで出て。2年目は深夜のメトロでの〈vol.夜露死苦〉で、Nature Danger Gangとかも出たさらに後、朝方のわけわかんなくなっている時間。去年の3回目は関わりが深かったバンドもみんなホールのメインステージに出て。その中でやっぱり地下ステージ出演を言われたことに関しては、リリースも含め何も結果を出せてないから当たり前だと思っていて。やっぱりKBSホールになってからの〈ボロフェスタ〉ってあのステンドグラスのバックが象徴的で、あそこでバーンとやりたいというのは目標としてある。でも花泥棒が〈ボロフェスタ〉に出るんだったら、メインステージでステンドグラス開くんだろ! みたい思われるほどの結果を出して出ないと意味ないなと思っている。そうなれたら故郷に錦を飾るみたいにね。

──出番の発表は一年の通信簿を渡されているような感じですね。

稲本:そうですね。飯田さん(飯田仁一郎/Limited Express(has gone?)・ボロフェスタ主催者の1人)やもぐらさん(ライブハウスnano店長・同じくボロフェスタ主催者の1人)に「今年も来てくれや。客100人呼んでくれ。」って言ってもらえるように頑張らないとね。

花泥棒『Yesterday and more』

花泥棒
Yesterday and more
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