

ほんのりアーバンなリードギター、少年マンガのような熱血とナイーブさが混ざり合うボーカル、それらをパワフルなパンクナンバーにまとめ上げるリズム隊。神戸の若き4人組・ムノーノ=モーゼスが、そんな「シーブリーズ」を表題曲とするシングルでCDデビューを飾ったのが、昨年の6月のこと。それは“夏の権化、夢の中シティーパンクバンド”という言い得て妙なキャッチコピーとともに話題となり、タワーレコード梅田NU茶屋町店をはじめとする取扱店でロングセラーを記録した。そして2月7日、彼らは晴れて1stミニアルバム『CURRY』をリリース。ki-ftではそれを記念して、主な詞曲を手がける若月雄佑(Vo,G)と小玉亮輔(G)の2名に文字媒体では初となるインタビューを行った。
『シーブリーズ』収録の3曲はいずれもスピード感にあふれたロック・ナンバーだったが、もしあなたがそれを聴いてライヴに足を運んだなら、実際の彼らがもっとバラエティに富んだバンドだとすぐに気づいたはずだ。本作『CURRY』はその振れ幅がしっかりと落とし込まれた、まさに”名刺”と呼ぶにふさわしい1枚となった。なかでも白眉は昨年のライヴで定番化していた直球のシティポップ「ドキドキ(しちゃうね)」や、変わりゆく日常への感慨を綴った実直なバラード「オールナイト」だろう。もちろん、メジャースケールを駆ける軽快なメロディと歌の瞬発力も引きつづき彼らの強みで、それはわずか1分半の1曲目「no mean」が鳴り出した瞬間に身をもって体験できる。
青春パンクと往年のシティポップを並列に扱い、シンプルで人なつこい歌とサウンドで消化するムノーノ=モーゼスの感覚は、シティポップ・ブームがひと段落した今ならではのものだ。しかし彼らの話からは、その2ジャンルのみにとどまらない柔軟なバンド観と開けたハングリー精神が強く伝わってきた。筆者は個人的に、彼らに限らずそんなボーダレスで開放的なスタンスこそが、この先のロックシーンの要になるのではないかと思っている。ロックでもポップでも、好きなものは多いほうが楽しいに決まっているのだ。(インタビュー:吉田 紗柚季)
“シティーパンク”という言葉からは脱却しようかなと
──まず、バンドを結成した経緯を教えてください。
若月雄佑(Vo,G / 以下、若月):元々、小玉(小玉亮輔, G)以外の3人が同じ軽音サークルで、オリジナル曲をやっていた時に「シーブリーズ」が出来たんです。そしてそれを演奏するにあたって、リードギターが欲しくなって。僕は軽音サークルと大学の軽音部を兼部していたので、その部活づてに知り合っていた小玉に入ってもらって、バンド名を決めました。それが2015年の夏ごろで、初ライヴがその一年後の2016年8月8日です。
──「シーブリーズ」ってそんなに昔からあった曲なんですね。
若月:そうですね。シングルを出す前、最初にレコーディングしてデモ音源として作ったのは、2017年の2月か3月だと思います。
──次に、メンバーそれぞれが普段聴いている音楽について聞かせて頂きたいのですが、若月さんはSoundCloudにたくさん弾き語りをアップされていますね。松任谷由実の「青いエアメイル」とか。
若月:シャムキャッツとか小沢健二が好きなんですが、一番根底にあるのはThe SALOVERSですね。僕は結構ミーハー気質で(笑)、でも松任谷由実や山下達郎は親の影響で聴いているので、そのあたりは昔から自分の中にある感じがします。
──なるほど。小玉さんはどうですか。
小玉亮輔(G / 以下、小玉):他の3人が通っていないところだと、60〜70年代の英米ロックですね。特にオールマン・ブラザーズ・バンドがめちゃくちゃ好きです。昔からギタリストを追いかけていたのもあって、インプロ感のあるバンドやアーティストは他の3人よりも聴いてきていると思います。
──今ここに居ないお二人は?
若月:岡崎(岡崎望, B)がいつも話しているのは、クラムボンとかFishmansあたりですね。
小玉:あとガレージ系。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか、BLANKEY JET CITYとか、よく言っています。
若月:塁斗(小崎塁斗, Dr)は青春パンクです。銀杏BOYSとか、GOING STEADYとか、太陽族とか。一応4人の共通項としては、ザ・リバティーンズやザ・クークスのようなUKロックがありますね。あとThe SALOVERSと。
──ロックが中心ではありつつも、メインの守備範囲は全員違うんですね。最初にメンバー全員の好きな音楽について伺ったのは、ムノーノ=モーゼスが掲げている“夏の権化、夢の中シティーパンクバンド”というキャッチコピーが気になっていたからなんです。これはどなたが決められたんですか?
若月:僕が決めました。初ライヴの時、MCであまり言うことがなくて(笑)。出番10分前くらいに、元々、考えていた言葉をパッとつなぎ合わせて出来たのがそのコピーです。そしたら思いのほか、そこに対する周りの反応が大きくて。
──今までありそうでなかった言葉ですもんね。メンバーごとの好みの違いを取り持つ意味もあったんですか?
若月:そうですね。ただ…今回、“シティーパンク”という言葉からは脱却しようかなと思っていて。
──あら、そうなんですか。確かにムノーノ=モーゼスのライヴを一度でも見れば、いわゆるパンク・バンドじゃないことはすぐわかるのですが、それは“シティーパンク”という言葉のイメージに縛られたら不便かもしれない、という事でしょうか?
若月:そうですね…“シティーパンク”って、誰がどう見てもシティポップとパンクをかけ合わせたってわかると思うんですけど。そこからYogee New Wavesとかnever young beachとか、パンクではないですけどandymoriとかでしょ? みたいに言われることが多くって。それはそれで嬉しいんですけど、ライヴを見てくれたら分かる通り、一曲一曲のタイプが違うので。一言で括られるのはあんまり面白くないなと。
メロディにハマる言葉選びって結局、韻だと思っていて
──それでは『CURRY』についてお聞きしたいのですが、本作の5曲はどの順番で出来ていったんでしょうか。
若月:一番はじめからあったのは「消えない会話」で、2017年の2月にはもうありました。その後が「ドキドキ(しちゃうね)」で、「オールナイト」は10月頭のプリプロの時に出来た曲です。「no mean」と「EASY GO」はアルバムのために急遽こしらえました。
──「ドキドキ(しちゃうね)」「消えない会話」「オールナイト」の3曲を軸にしてまとめるために、「no mean」と「EASY GO」を前後に加えたわけですね。「ドキドキ(しちゃうね)」だけは小玉さん作曲なんですよね。直球のシティポップ・ナンバーで、若月さんの曲とは一風変わったテイストになっていますが、こういった曲をバンドに持っていこうと思ったのはどうしてですか?
小玉:若月の作る曲って結構8ビートばっかりなので、ちょっとシンコペーションだったり、リズムに16分音符が入っているような曲をやってみたくなったんですね。それで僕の好きな音楽の中で、「メンバー4人とやってハマる感じはどれやろう?」って探したところ、出てきたのがシュガーベイブとか山下達郎で。コード進行が出来たあたりからそういうイメージが湧いて、広げて作っていきました。
若月:今回、特にメインに据えたのが「オールナイト」と「ドキドキ(しちゃうね)」で。「ドキドキ(しちゃうね)」は僕の曲と雰囲気は違うんですけど、ライヴでお客さんの反応が一番良かったりするんですよ。
──なるほど。「ドキドキ(しちゃうね)」もそうすが、若月さんは歌詞をメロディに乗せるということに対してこだわりを持っている印象があって。本作も、例えば「no mean」での《走るのを見るまで》が、音源では《走るのを見る ベイベー》になっていたりとか、《何度目かの後ろ姿》の、《か》のkの発音が無くなっていたりとか、必ずしも歌詞カードと一致しない歌のラフさがカッコいいなあと思いながら聴いていました。歌詞や歌い回しについて具体的なこだわりはありますか?
若月:歌詞で一番気にしているのは韻です。歌いやすさ、語呂の良さとか、メロディにハマる言葉選びって結局、韻だと思っていて。韻を踏めば必ず歌いやすいフレーズになりますし、聴く人に「ココとココが踏まれてるな」って楽しんでもらうこともできるし。僕は歌詞カードをいっぱい見るんですけど、小沢健二もめちゃくちゃ韻を踏んでいて。ヒップホップを聴くときも、ラップそのものより最近のceroが取り入れているようなフロウに興味があったりしますね。
──なるほど。歌い方の影響で具体的に思いつくアーティストはありますか?
若月:一番は奇妙礼太郎ですね。あとは浜崎貴司(FLYING KIDS)とか、古舘佑太郎(The SALOVERS)とか、山下達郎、トータス松本とか。男臭いですけど、そういうところですね。本当は小沢健二みたいに歌いたいんですけど。
──その“男臭さ”こそがムノーノ=モーゼスの歌の強さになっていると思いますよ。『CURRY』が出てからは、ムノーノ=モーゼスのことを“歌が強いバンド”として聴きに来るお客さんも増えると思うのですが、若月さん以外の3人としては、バンドサウンドで歌を支えるといった感覚があったりはしますか?
小玉:うーん…歌を支える…歌を支える…ないかもしれん。
若月:ははは(笑)。
──そこまで忠実に、といったものでもない?
小玉:そうですね。
若月:でもまあ、歌心みたいなものはさ。とりあえずメンバーで、インストが一番好きみたいなやつはいないやんか。
小玉:俺インストが一番好きかも…。
──はははは(笑)。
若月:そうなんかよー!(笑)
小玉:まあでも、歌自体へのこだわりみたいなんは全然あります。歌につける注文は俺が一番多いんちゃうんかな。
若月:確かにそうやね。
自分の人生がプロットとして、押し付けがましくない形で散りばめられているものがすごく魅力的だなと思う
──続いて、歌詞の内容についてお聞きします。さきほど“シティーパンク”からの脱却というお話もありましたけど、いわゆるパンクの伝統のような志や反骨精神というよりは、日常を愛おしむような描写が中心ですよね。
若月:そうですね。日常という話で言うと、僕は山崎ナオコーラさんっていう小説家がすごく好きなんです。特に、小説の中に山崎さん自身の人生が垣間見えるようなところが。山崎さんのエッセイを読んだら、小説の一部とほとんど同じ状況の体験記が書かれていたりするんですよ。つまり、山崎さん本人が経験したことをつなぎ合わせてその小説はできていて、でもそれはそれで、物語としても成り立っているんです。そういう、自分の人生がプロットとして、押し付けがましくない形で散りばめられてるところがすごく魅力的だなと思うんです。
──その人の生活に基づいているとわかる“確かな手触りのあるもの”が、受け手としても共感できる形で織り込んである。そういうものに説得力があると。
若月:はい。自分でそれをやる時の判断基準はすごく難しいんですけどね。今回のアルバムに関して言うと、まず既存の3曲(「消えない会話」「ドキドキ(しちゃうね)」「オールナイト」)を並べて、その後に僕が弾き語りで持っていた2曲を歌詞を見ながらはめ込んでみたら、テーマじゃないですけど、凄くしっくりきたんですね。
──無意識のうちに根っこの考えが出ていたんだなという。
若月:そうですね。僕は何に対しても保守的というか、現状維持のことばっか考えてしまうんです。変わらないということは一見良いようだけど、自分達が変わらなくても状況は変わるし。
──特に「オールナイト」と「EASY GO」の歌詞には、若月さんが大事にしているものが強く出ているように感じました。「オールナイト」の“良くないことで笑い合うために僕らは遠くへ行きたくないのさ”とか、「EASY GO」の“今はもうない道を懐かしく思う”とか。
若月:わあ、嬉しい。一番強いところや。そうなんですよ。
──年月が過ぎて成長していくなかで、それまで日常にあったものがふと後ろ髪を引いてくることがある。そういうもの達へのまなざしを強く感じたんですね。状況の変化に逆らうわけではないけれど、今周りにある愛おしいものは出来るだけ手放さずにいたい、その狭間で揺れているというか。その集約がこの「オールナイト」の“良くないことで笑い合うために〜”なのかなと。実際去年は、バンドにとっても激動の1年だったと思うんですが。
若月:はい、確かに。今まではコツコツ書き溜めたフレーズから歌詞を書くことが多かったんですけど、この5曲はほとんど同じ時期に書いた歌詞で。今見返すと、もがいてたんだなと思います。
──それはいつ頃ですか?
若月:ライヴがすごく増えてきた時期と重なっていて。必ずしもバンドのことだけではなくて、自分の私生活に対しても言えることなんですけど、そういう保守的なところから……未来はもっと甘いんだよ、みたいな。アルバムの流れとか特に意識していた訳ではないんですけど、それがいつの間にか出たということは、聴く人にも自然に辿ってもらえる作品に出来たということじゃないかなと思っています。

聴いてくれる人みんなに最強になってもらいたい
──これからムノーノ=モーゼスを知る人にとってはもちろん、これまで聴いてきた人たちにとっても“シティーパンク”というイメージは上書きされていくのではと思います。メンバーごとに音楽の好みが違うという話をお聞きしましたが、活動していくにつれて、そのあたりの折り合いはどうつけているのですか?
若月:全然、まだまだバチバチです。アレンジで揉めたりとかはしますね。ただ……上書きっていうよりは、永遠に自由でいたいというか。
──とりあえず、キャッチコピーで制限されるものがあるなら、そこからは外れた方が楽しいという事でしょうか。
若月:そうですね。近いタイプの曲ばっかりやるよりは、僕らがまだやっていないものをどんどん作っていってどれだけ幅を増やせるか、みたいなことをしていきたいんです。新しくサウンドを増やすというよりは、今持ってるものの中で、どれだけ裏をかけるかみたいな。
──4人の引き出しの中で、どれだけ音楽的に幅広いことが出来るかという挑戦をしたいと。
若月:ただまあ…そんなに技術があるわけではないんですが、試行錯誤しながらやっていきたいという気持ちはありますね。アレンジ力は身につけたいです。歌詞とか語感、メロディの親しみやすさに重きを置いてはいるんですけど、自分達がカッコいいと思う音楽を自分達がやったらどうなるか、みたいなところはずっとあります。流行りとかじゃなくて、やりたいと思えるくらい好きなもの。それだけでたくさんあるので。
──今持っているものの中でということは、新しくキーボードの音を入れたりとか、そういうものとは少し違うんでしょうか?
若月:今は少なくともそうは思わないです。けど、いずれそういう時が来ても全然おかしくはないですね。
──今のスタンダードなバンドのフォーマットに、そこまでこだわりがあるわけではないんでしょうか。
若月:そこまで飛躍した考えを4人とも持っていないだけかもしれませんけど。でも基本的に、僕は、シャムキャッツみたいな…4人でどこまで出来るかっていうことに興味があります。
──シャムキャッツはここ数年ずっとその探求をしていた印象がありますね。
若月:はい。まあでも…僕がキーボード弾くかもしれないし、小玉がサックス吹くかもしれないし(笑)。
小玉:それはないやろ(笑)。
若月:でも、塁斗がドラムにサンプラー入れたりするかもしれないですし。それはもう本当に、わからないですね。
──4人であれば、楽器の編成が変わることも決してナシではない?
若月:面白くて実現可能ならやりたいです。
──最後に、リスナーにとってムノーノ=モーゼスがどういうバンドに映ってくれたら嬉しいな、というようなものはありますか?
小玉:それは別に、受け取り手次第とちゃうんかな。なんかある?
若月:僕はシャムキャッツとThe SALOVERSが一番好きなんですけど。原体験じゃないですけど、シャムキャッツを聴いた時に腰抜かすくらいカッコよくて「聴いてる俺は無敵だ!」みたいに感じたんです。僕らはまだそのレベルではないですけど、いい曲を作っていいライヴをするっていう基本的なモチベーションとしては、もう、みんなに最強になってもらいたいという。バカっぽいけど(笑)。でも僕は結構、そこですね。

CURRY
フミツキレコード, 2018年
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