【インタビュー】ベランダ、これまでとこれからの“街”と“旅”|『Anywhere You Like』

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昨年、清流のようなメロディと端正な言葉選びのデビュー・アルバム『Any Luck To You』が全国区で話題となったベランダ。リリース後のライヴ活動ではPredawnやあだち麗三郎らと対バンを果たし、先月20日には、二条nanoでのナードマグネットとのツーマンライヴがソールドアウトとなった。

2014年の結成から今月でおよそ4年。決して人目を引く派手さはなかった彼らの活動は、シンプルなギター・ポップが復権しつつある今のムードの中、インディー・ポップとオルタナティブ・ロック、双方のリスナーの支持を得てようやく軌道に乗りはじめている。インタビューは、信じてきた自分達の音楽が受け入れられたということと、活動の速度を上げていく準備が整いつつあるということ、そんな2つの喜びがにじみ出るにぎやかなものとなった。

今作収録曲のうち、リリース前のライヴで最も注目されていたのは、プログレテイスト全開の「IZUMIYA」と「しあわせバタ〜」だろう。しかし前者は前作が出た直後から披露されていたし、後者も昔からあった曲だというから、彼らの音楽性に大きな変化があったわけではない。むしろ、「2017」や「その目で」の田澤守(Support G)のギターサウンドのスケール感や、ソロでの活動も行う中野鈴子(Ba, Cho)の「(ever)lightgreen」での微熱のヴォーカル、そして、全体に散りばめられた“街”と“旅”を思わせる言葉たちにこそ、ベランダの成果と実感が詰まっているように思える。ここ1年のライヴの半分が東京だったという彼らは今、活動拠点についての大きな分かれ道に面しているところなのだ。

この頃は地方で音楽をする者にとって、住む場所も、音楽をする場所も、これまで以上に選びやすい環境が出来上がりつつある。すぐ上の先輩にメシアと人人、同世代にギリシャラブや中村佳穂といった在京ミュージシャンを持つベランダがこれから選ぶであろう道もまた、その選択肢の幅広さを示す一つの形に違いない。(インタビュー・テキスト:吉田 紗柚季、編集:ki-ft)

「これでいいんや」っていう再確認が出来た年でした。(髙島)

──2017年1月リリースの前作『Any Luck to You』は、リリース以降じわじわとセールスも取扱店舗も増えて、かなりのロングセラーとなりました。それに伴いバンドの活動も一気に広がって、昨年は皆さんにとっても大切な1年になったことと思います。今作の1曲目「2017」というタイトルは、まさにそれを象徴しているように感じたんですが、去年がどういう1年だったのかを一人ずつ聞かせてください。

髙島颯心(Vo, G / 以下、髙島):個人的には、めちゃくちゃ激動やったというか。アルバムを出して予想だにしない反響があって、新しいことも立て続けに起こりました。たくさんの人が注目してくれてるということも分かったんですね。あたふたはしてたけど、バンド活動の楽しさを知った年でもありました。実際にライヴに来てくれるお客さんも、リリース前から比べて3倍以上にはなっていると思います。

──ソングライターとしての責務が報われたというような気持ちも?

髙島:そうですね。お客さんにもよく「曲が好きです」とかって話しかけてもらえるようになりましたし。ちゃんと僕にフィードバックが返ってくるようになったので、「これでいいんや」っていう再確認が出来た年でした。

──中野さんはいかがでしょうか。

中野鈴子(B, Cho / 以下、中野):バンドとしては、前のアルバムを作った時にどういう反響があるか全然想像してなかったんです。良い物が作れたな、って自分たちで満足していました。その後、去年の4月から7月くらいまで、週2回くらいのペースでライヴをたくさんやり続けた時期があって、その時期で得たものが自分にとってはすごく大きくて。ベランダのライヴが力を持つものになれたのでは、っていう手応えが大きかったです。それと、個人的には、夏くらいにAIと人間の関係についてすごく考えていたことがあって。

──AI?

中野:はい。変なのって言われるんですけど(笑)。インターネットを使っているうちに、AIに嗜好とか個人的なデータをどんどん収集されていくことで、ゆくゆくは魂の根っこの部分まで乗っ取られてしまうんじゃないかって。

──Amazonで見た商品の広告がいろんなサイトに出てきたり※1、サブスクリプションのレコメンドに好みを把握されたりするような状況のことでしょうか。

中野:そうです。どんどん心を読まれていくみたいで危機感を抱いて、あらゆるネットから遠ざかろうとしたこともあったんですけど。逆に、音楽で表現していく者として、街や人や世の中の、プログラムでは読みきれない部分にとても魅力を感じるようになった年でもありました。

髙島:AIにロマンは分からへん、っていう。

中野:そういうこと!

──なるほど。田澤さんはどうでしたか?

田澤守(Support G / 以下、田澤):単純に、ライヴが多かったことで得られたものがたくさんあったなと思います。ギターに執着するようになりましたね。今までは、(バンドの)音が良ければ自分がむやみに弾かなくてもいいかな、って思っていた部分があったんですけど、自分が上手くなっていくことによって見えてくるものもあるんだなって。別に、そこに優劣があるわけではなくて。ただ、他の人のライヴを見るたびに、いろいろなことを考えながら練習するようになりました。

──個人的には、今年ベランダのライヴを見るなかで、田澤さんがいろいろなアプローチを試されているような印象は受けていました。

田澤:ほんまですか。

──特にギターの歪みとか音色の面ですね。ギターバンドである以上、田澤さんのギターって要になる部分じゃないですか。

髙島:守がおるのとおらんのでは、ベランダのジャンルは大きく変わりますからね。

──では最後に金沢さん、お願いします。

金沢健央(Dr, Cho / 以下、金沢):僕は昔から、ベランダの営業とか広報みたいな役回りをしていて。前作のリリースの準備の時も、MVをどういうものにするかとか、世に広めるための見せ方とかをメンバーと一緒に考えていたんですね。それで2017年のリリースがこんな感じやったんで、颯心とはまた違う意味で報われた気持ちがありました。あと、さっき鈴子が言ってたように去年はライヴが多くて、やるうちにだんだん良くなっていっていることも分かったので、そういう楽しさを感じることもできて。元々僕はライヴがすごく好きで、ライヴの予定がいっぱいあると楽しくてしょうがないんですけど、もっとレベルの高い音楽、ライヴを目指そうっていう気持ちになりました。あと、2016年は仲悪かったから(笑)。2017年にバンドがいい感じになって、仲良くなれたので良かったです。

中野:2016年、ライヴで一言も喋らずに終わった日とかあったね(笑)。

髙島:お客さんのおかげやな。良くなったのは。

金沢:そうそう、そうなんですよ本当。皆さんありがとうございます。

CHIIOと出会ったことが本当に大きかったなと思ってます。(中野)

──先ほどの仲が悪かった話って、前作の制作期間中もそうだったんですか?

金沢:いや、去年のアルバムはそもそも制作期間が決まってたわけじゃなくて。丸一年くらいかけて、何曲かずつ録ってたんですよ。

──今作はまとめて作ったんでしょうか。

髙島:そうですね。去年の年末に、3日間ぼんぼんって8曲録って。

中野:しんどいけど楽しかったよね。

金沢:めっちゃ楽しかった。1日12時間ぐらいやって終電で帰って、次の日朝起きてまたレコーディングがある、っていう間の2晩が最高でしたね。

髙島:実際録ってみてミックスをすると、絶対に奇跡的な、魔法的なことが起こるんですよ。だからレコーディングはいつも楽しいんです。

──なるほど。今作収録の曲について、作った順番をお聞きしてもいいですか。

髙島:弾き語りで完成した順で言うと、「IZUMIYA」が最初で、「しあわせバタ~」、「水辺」、「(ever)lightgreen」、「ハイウェイオアシス」、「その目で」、「2017」、「エニウェア」の順ですね。「IZUMIYA」は2016年頃にはもう1番だけ出来ていて。「しあわせバタ~」が出来たのは2017年の1月末なんですけど、イントロのリフだけは大学1回生のときに作っていたので、5, 6年寝かせたことになります。

──「IZUMIYA」は前作が出るよりも前なんですね。前作に入らなかったのは、アルバムのカラーを考えた結果だったんですか?

髙島:そういうのは全く無くって。単純に、弾き語りはあったけど、バンドのアレンジが出来上がってなかったんですよ。「IZUMIYA」のアレンジが出来上がったのは本当に最近。去年の11月とかで。

──今回、やっと「IZUMIYA」のアレンジが定まったというのは、ライヴが多かった4月から7月にかけての収穫だったりしますか。

髙島:それは絶対ありますね。自分達がライヴを見る数もめちゃめちゃ増えたので、インプットが多かった時期でもありました。一昨年とかには絶対作れなかったアレンジが出来たと思います。

──昨年見た中で、特に衝撃を受けたのは誰でしょうか。

髙島:CHIIOとナツノムジナかな。それぐらい、お互い多分そうなんですけど、影響を受けるくらい近い存在やったんですよ。その2バンドは。

金沢:好きやわー。

──去年の11月、京都GROWLYでナツノムジナのレコ発を企画したのが金沢さんですもんね。両方とも東京を拠点としているバンドですが、去年のライヴが多かった時期って、東京でのライヴの割合はどのくらい増えたんですか?

髙島:今となっては半分くらい東京でしたね。

──そんなにですか。それ以前は多くはなかったんですか?

金沢:何ヶ月かに一回は行ってました。ライヴハウスに連絡とって、ブッキング組んでもらって。全然お客さんがいないイベントもあったんですけど、何回か行ってるうちにCHIIOに出会って。そこから、俺らの東京界隈へのつながりが一気に広がったんですよね。その後にリリースもあって、更に活動が楽しくなっていったという。それまで、お金かけて東京行って意味あんのかな、って気持ちもあったんですけど、そんな出会いがあったので行ってよかったなって。

中野:CHIIOと出会ったことが本当に大きかったなと思ってます。

髙島:自分達の企画に呼んでくれたりもして、横のつながりが一気に増えました。

──そうだったんですか。歌詞の方も、今作は「ハイウェイオアシス」とか「(ever)lightgreen」とか、移動を思わせるものが多いですよね。ライヴが多かった期間の、東京と京都を行き来する生活が反映されてるのかなと思ったんですが。

金沢:そういう歌詞の話って、メンバー内ではあんまりしないんですよね。

髙島:したことないですね。これどういう意味なん?とか言及されたことは。

中野:でもそういう意味では、「ハイウェイオアシス」とか「(ever)lightgreen」って、移動が多くなる前の曲じゃないですか?

──そうなんですか?

金沢:ほんまや。移動が好きやったんちゃう?

髙島:そもそも道と街フェチなんで、そういうのは大好きですね。

──「IZUMIYA」なんかは特にそうですけど、具体的な街の描写が多いようにも思いました。でも、昔からあった曲なんでしたっけ。

髙島:弾き語りでやってた頃は1番しかなくて、2番以降を作ったのは結構最近ですね。元々具体的なことを書くのが苦手というか、好きじゃなかったので、前作は抽象的な歌詞が多くて。聞く人がいろんな解釈をしてくれたらいい、って間口を広くとってた部分があったんですね。でもそうは言いつつ、元々フォークソングとか、ラブソングは好きなので。具体的なものと抽象的なものとでバランスを取ろうと思って作った曲が多いですね、今作は。

──なるほど。具体的と言えば、「IZUMIYA」の甲子園のくだりの歌詞はすごいですよね。

ほら見たことかって
おまえ何様なんだよ
甲子園に向かって毎朝敬礼しろよ
球児に道をあけろ

中野:あー、確かに。

金沢:俺、歌詞スクショしてもぐらさん※2に送ったもん。「こいつヤバくないすか」って(笑)。

──はははは(笑)。

中野:でも、そういう性格の悪さが出たのが良かったよね。

金沢:そういう意味では違う一面も見えるアルバムやと思いますね。

ゆくゆくは上京したいと思っています。(髙島)

──東京のライヴも増えて、東京のバンドとの交流も増えていったということで。これまでの話を聞く限りだと、このタイミングで上京を考えるパターンもあるのではと思うんですよ。実際に、メンバーの間でそういう話が出てきたことはありましたか?

髙島:あります。初めて出たのは去年かな。

金沢:去年のいっぱいライヴしてる時期ですね。

髙島:アルバム出してから状況も変わっていく中で、考えないといけないことが多くなってきて、話し合うことも増えて。自然に、メンバー自身もそれぞれ視点が広くなったというか。ライヴを見てくれるお客さんの絶対数が、東京の方が多いんですよね。東京でめちゃくちゃ反響があって、手応えがあったりもしたし。

金沢:東京の大人の人とも喋る機会が増えて、リアルなメリットみたいなのが理解できるようになった、っていうのもあります。

──まだその答えは出ていないんでしょうか。

髙島:はっきりとは決まってないですね。でも、ゆくゆくはしたいと思っています。ライヴも東京の方が多くなってきてるし、拠点を東京に移したところで、そこまでバンドの状況が変わらなくなってきてるんですよ。

金沢:生活絡みでまだ準備が整ってなかったりするんで、今すぐってことはないですけどね。

──京都を拠点にしているうちでは、今作が最後のアルバムになるという可能性もあると。

髙島:それはありますね。

金沢:そんな気持ちで作ってはないですけどね。

──最近は、地方在住のままメジャー・デビューが決まることも珍しくはなくなってきてますよね。それでも京都から出ようと思ったのは、シンプルに住む場所を選ぶような気持ちもあったんですか?

髙島:そうですね。音楽シーンのことと半々くらいです。僕は浪人して大学入ったんですけど、浪人時代も京都の予備校に通ってたから、もう住んで8年目になるんですよ。京都のことは大好きなんですけど、そろそろ、暮らす環境を変えたいなっていうのがあります。地元は滋賀なんですけど「京都の人やと思った」って絶対言われるから、京都の情緒とか、人間性とかはもう染み付いたのかなって。住む場所が変われば作る曲も絶対変わるんで。

金沢:俺はシーン的な部分がちょっと多いかな。今大阪に住んでるんですけど、そういう意味では大阪にずっといても、いいっちゃいいし。

──なるほど。髙島さんは、その引越しについての考えが今作の詞に出ているという意識はありますか?

髙島:特に無いって思ってるけど、もしかしたら無意識的な部分であるかもしれない。「(ever)lightgreen」とか、まさに。

東京にだってひとりで行ける
5年後を待ってる暇ない
薄緑色のコートを買って身をかくすように溶け出す

金沢:僕は颯心くんのファンとして、「めっちゃ影響されてるやろ!」って思ってますね。

髙島:じゃあそうかも。ふふふ(笑)。

──「(ever)lightgreen」もですし、個人的には「IZUMIYA」も、そういう意識の中で改めて京都を見つめ直しているような印象がありました。

髙島:確かに、東京を意識したからこそ、京都に対する意識も向いたのかもしれないです。だから、こういう具体的な(歌詞の)曲が出来たのかもしれない、っていうのは思いました。

ベランダが、コレに影響受けてこうですって簡単に説明されてしまうのは、僕はちょっと嫌なんです。(金沢)

──暮らす街としてではなく、音楽シーンとしての京都のこともお聞きしたくて。髙島さんと金沢さんは立命館KEAKS※3の出身だそうですが、メシアと人人もそうですよね。

髙島:メシアと人人は一つ上の代ですね。シーンに関して言えば、京都は独特やなってのはずっと思ってます。大阪とか近隣の県と比べても、学生のバンドがめちゃくちゃ多いし。

金沢:ベランダの前のバンド※4を組んだ時、俺がメシアと人人みたいになりたいって言ってこいつ(髙島)を誘ったんですよ。

──そうなんですか!

金沢:サークル外のライヴにも出て頑張ってるバンド、っていう立ち位置的な意味ですね。学年で一番カッコいいバンドになりたいって言って。

髙島:大学に入ってメシアと人人を初めて見て、めちゃめちゃ衝撃的で。「あ、こんな音楽もあるんや」っていうのを知りました。で、見渡してみれば、京都という土地の中には結構いたんですよね。そういう自分の知らなかった界隈のバンドが。ほんまに、るつぼ的な土地やなってのはずっと思ってます。

中野:私は、最初に組んだバンドが大阪のバンドで。その頃に天王寺fireloopのイベントでMILKBARを見て、そこから京都に興味を持つようになりました。京都の音楽に憧れて、飛び込んでいきたかったところはあります。

──ここ最近で、そういった感覚に変化はありましたか?

髙島:特に変わりはないですね。その時に感じたことが強くはなったかもしれない。

──東京のライヴが増えて、京都の独特さがより感じられるようになったということでしょうか。元々ベランダの音楽って、京都のオルタナティブな音楽シーンと、そこまで親和性が高いわけではないですよね。そういった距離感についてはどう感じてこられましたか。

金沢:僕は元々、京都のオルタナシーンのギリシャラブとかムーズムズとか、そのへんがめっちゃ好きで。ライヴもめちゃ行くんですよ。もし僕らが東京に行って、彼らのいるところと距離が出来てしまっても、決してあかんことではないと思うんですよね。どこにでもある距離やと思ってるくらい。そこにいるバンドがみんなカッコいいのは知ってるし。

──なるほど。同じ立命館出身のバンドとしては、くるりも外せない存在だと思っていて。「ハイウェイオアシス」の1行目の歌詞に“バイパスのhow to go”とありますが、リスペクトのようなものがあったんですか?

髙島:それは、特に意識して書いたわけじゃないですね。完全に語感で選んだ言い回しです。ほとんどの曲はメロディも歌詞も同時に作るんですよ。それで歌ってみて、違和感あったら細かい言い回しを変えたりとか。意味は後付けなことが多い。

──そうなんですか。ちなみに実感として、髙島さんがいちばん影響を受けてると感じる人はいますか?

髙島:音楽を始める前から詩は独学で書いてたんですけど……バンドに目覚めたきっかけはハヌマーンです。ハヌマーンで「バンドってかっけえ!」ってなって。山田亮一の作詞のスタイルにはめちゃめちゃ影響受けてますね。

──ハヌマーンは意外ですね。くるりやスピッツなどから直接影響を受けてるわけではないという。

髙島:くるりはメンバーみんな大好きなんですけど、特に詞の部分では影響は受けてないつもりですね。

──ただこの先も、ベランダがそういったバンド名と一緒に語られることは多いんじゃないかと私は考えてて。それについてはどう思いますか?

金沢:うーん……俺はあんま言いたないねんな。くるりとかももちろんやけど、他の偉大なバンドでたとえて言ってしまうと、ちゃっちく聴こえてしまうような気がして。そういうインディーズバンドは多すぎるし。ベランダがそういうふうに、コレに影響受けてこうですって簡単に説明されてしまうのは、僕はちょっと嫌なんです。

中野:聴いてルーツが分かるより、わからない音楽のほうが好きっていうのはあります。自分でもわかってないかもしれない。

──なるほど。確かに、くるりのようなバンドをたとえに使うのって、特に神経を使うんですよね。金沢さんがおっしゃるように、今までそう説明されてきたバンドはたくさんいたでしょうから。そもそもベランダの音楽って、言葉で説明しようとすると難しい部分があって。普遍的といってしまえば簡単なんですけど、歌詞にも曲の展開にも、それで済ませるのが惜しくなるような魅力があるという。

髙島:そう言われると、してやったり感はありますね。俺のルーツは絶対わからんもん、聴いてる人は。

──ハヌマーンも決して共通項が多いわけではないですもんね。

金沢:ハヌマーンめっちゃ好きやんな。

髙島:そう。まずバレないんですよね。

売れた時の中学生とかが、その先でいろんな音楽に出会っていけるような、入り口のバンドになれたら一番いいなと思います。(金沢)

──今年の2月に、金沢さんが「今ある既存の音楽業界内での競争に勝つことが最終目標ではないです。」っていうツイートをされていたのが気になっていて。詳しいところを聞いてもいいですか?

金沢:もしも売れる実力が僕らにあったとしても、今ある業界のレースに勝ったところで何も変わらんと思ってるんです。業界そのものが変わるようなことをしていきたいバンドではあって。あんまり僕ら、業界に対してパンクなこととか言わんけど。普通に一気に売れて消費されて、「昔あんなバンドおったな」とかいう存在になってもあまり意味がないかな、と思います。

──あまりにも一瞬で売れて散っていくことには抵抗があると。どういうバンド像を理想として持っていますか?

金沢:売れた時の中学生とかが、その先でいろんな音楽に出会っていけるような、入り口のバンドになれたら一番いいなと思います。

中野:そういう意味では、必ずしも派手に売れなくてもいいかなって。前にコンテンポラリー・ダンスをやってる友達から聞いたんですけど、ヨーロッパのダンスイベントって、それこそ日本のブッキング・ライヴみたいに広告が街に貼ってあって、気軽に見に行けるものらしいんですね。そういうふうに、売れてなくても「これがいいな」って心から思うものを、みんなが選べるようになったらハッピーだなって。

──単に売れることではなく、そういう人が増えるきっかけになることが大事ということですね。となるとこの先、その場その場で自分達の選択を通すことも大事になってくるように思います。

金沢:バンドとしては、そういう状況をちゃんと作るために売れたいですね。

──ある程度商業的な結果がないと、そういった采配は難しいでしょうしね。どのくらいの規模で活動すれば自分達のやりたいようにやれるかというのは、バンドの音楽性や方向性によっても変わってくると思うんです。たとえセールスは小規模でも、自分達のやりたい活動を優先しているミュージシャンもたくさんいますし。やりたいことと広く届けることのバランスの取り方については、どう考えていますか?

中野:そういう意味では、颯心くんの歌は、歌自体がそれだけで万人に届くかなと思ってて。だからこそ、好き勝手にやってもみんなに届くんじゃないかと信じている感じはあります。

髙島:僕の歌がそういうポテンシャルを秘めてるっていう自覚はあって。今こうやって好き勝手やってるんですけど、それでもちゃんと、良いって言ってくれる人がいるっていう。

──そのことに対してプレッシャーを抱くことはありますか?

髙島:何もないですね。

──そういう意味では、今作は自由で肩の力が抜けたものになっていると思います。

髙島:前作よりも、もっと好き勝手やった結果ですね。

──上京の話もありましたが、ベランダの皆さんにとっては、大学進学で京都に来たのと、バンドを結成して東京に行くのとが、同じ階段の一段ずつなのかもしれないと感じました。

髙島:そうですね、自然なことやと思ってます。だから抵抗はなくて。このまま、思うがままに進んでいけばいいんちゃうかなって。


※1 様々なウェブサイトが利用する広告収入サービス・Google AdSenseは、Googleが検索履歴から収集した利用者一人ひとりの嗜好データに合わせて広告の内容を決めている。
※2 京都二条のライヴハウスnanoの名物店長。
※3 フォークソング同好会KEAKS。髙島、金沢、田澤の母校である立命館大学の軽音楽サークルの一つ。
※4 髙島と金沢が在籍していたベランダの前身バンド“ほいほい”。2011年秋にKEAKSで結成、2014年1月に解散。ベランダはその翌春に結成された。


【作品情報】


ベランダ 2nd Album
『Anywhere You Like』
ゆんべレコード
2018年4月11日発売

01. 2017
02. その目で
03. エニウェア
04. IZUMIYA
05. しあわせバタ〜
06. 水辺
07. (ever)lightgreen
08. ハイウェイオアシス

購入:TOWER RECORDS, AmazonCD, 楽天ブックス

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