

滋賀県出身の4人組、揺らぎが8月8日にFLAKE RECORDSが運営する音楽レーベルFLAKE SOUNDSから初の全国流通盤『Still Dreaming, Still Deafening』をリリースする。シューゲイザー、ドリームポップ、ノイズミュージックに影響を受けたサウンド、クリスタルのように透き通るウイスパー・ヴォイス、そしてモグワイを思い起こすようなボトムの効いた轟音。現在は滋賀や京都を中心に活動している彼らだが、昨年はジャパニーズ・ブレックファストやレイジー・アイズなど海外のバンドとも共演を果たしており、これから注目すべきバンドであることは間違いない。
さて揺らぎを聴くと、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスロウダイブ、あるいはインディーズ時代のきのこ帝国を思い起こす人がいるかもしれない。しかし最新作『Still Dreaming, Still Deafening』では環境音を取り入れたり、10分以上の楽曲を制作したり、曲間を繋いだりといった様々な工夫が見受けられる。今回はヴォーカルであり作詞・作曲担当のmirai akita(Vo, G / 以下、みらこ)にインタビューを行ったが、彼女は揺らぎというバンドは「どこにも属したくはないですね。シューゲイザーにも属したくないです」と語り、シューゲイズ以外の作品からの影響を語ってくれた。それにより本作は従来のシューゲイズとはひと味違った、エクスペリメントで刺激に溢れる作品へと仕上がっている。シューゲイズのシーンどころか、シューゲイズそのものを塗り替えるアイデンティティに満ちたバンド、揺らぎ。今回はそんな彼らに、今までのこと、そして最新作『Still Dreaming, Still Deafening』について話を聞いた。(インタビュー・テキスト:マーガレット安井、編集:ki-ft)
リスペクトだけになるほど、つまらないことはないですからね。
──揺らぎを結成した経緯を教えてください。
みらこ(Vo,G):「自分で曲を作って、バンドしたいな」と思って、高校1年生の時に軽音部に入ったんです。そこで今は揺らぎを脱退したんですけど、ユウカというギターの女の子がいて。その子と二人でバンドを始めたのがきっかけです。その後メンバー・チェンジがあって、高校2年生の時に、私、ユウカ、前のドラムと今のベースのゆうすけ(Ba / yusuke suzuki)の四人になって揺らぎの原型のようなバンドが出来ました。ただ、その時は全然バンド名も違うし、シューゲイザーというよりかは、シナリオアートや宇宙コンビニみたいな感じの音楽をやっていました。そして大学入った時に、ドラムが「映像をやりたい」と言うので脱退して、今のドラムのゆうせい(Dr / yusei yoshida)になったのですが、そのタイミングで今に近い形になりました。私もともとシューゲイザーが好きで、やりたかったんですが「このジャンルをバンドメンバーがやってくれるか」っていうのが不安で。でも、みんなも「これがやりたい!!」っていう話になって。ただマイブラとかを目指すわけではなくて、自分なりの完成形を目指したシューゲイザー・バンドをやろうと思って、今はやっています。
──「もともとシューゲイザーが好き」と言っていましたが、どういう経緯でシューゲイザーが好きになったのですか。
みらこ:もともと、ハード・ロック、グランジ、ブルースが凄く好きな子供だったんですね。だからバンドを始めた時は歌い方も声量があってパワフルに歌うみたいな感じのヴォーカルをしていたんですが、でも何となく合わないというのが分かってきてて。そこで自分なりの歌を探している時に動画サイトで音楽を漁っていたら、たまたまマイブラに出会って。それを聴いて「世の中にこんな音楽があるんや」と衝撃を受けました。これなら自分の声とマッチするなと思ってシューゲイザーをやってみました。
──シューゲイザーのどの辺がマッチすると思ったのですか。
みらこ:ウイスパー・ヴォイスですね。私自身、歌を歌としてだけ捉えるという考えが苦手で。声も楽器の一部であり、演奏の一部だと思っていて、マイブラを聴いてその表現が一番ぴったりと感じたんですね。
──京都や大阪、神戸のバンドはよく耳にするのですが、滋賀県のバンドっていうのは珍しいと思っていて。
みらこ:私たちの同期だとclimbgrowとかRocket of the Bulldogsとかがいますね。でも、うちらはジャンルが違うので。滋賀にはインディー・シーンが全然ないです。
──揺らぎは自分たちをインディーだと感じていますか。
みらこ:自分たちはインディーでもない、と思っています。と言うか、どこにも属したくないですね。シューゲイザーにも属したくないです。
──「シューゲイザーにも属したくない」というのは。
みらこ:最初、シューゲイザーをやり始めた理由の一つが、シューゲイザーをやっている最近のインディー・バンドとかを聴いても、なんかただ先人を追いかけている感じがして正直自分の中では良いと思わなかったんです。だからシューゲイザーが凄く好きだけど、最近のシューゲイザーが面白くないから、自分でやりたかったというのがあって。リスペクトだけになるほど、つまらないことはないですからね。
──揺らぎのライヴを何回か観ていますが、ちゃんと耳栓をしたくなるような轟音を出して空間を作るバンドって、揺らぎぐらいしか見たことなくて。
みらこ:すごい褒め言葉だ。ありがとうございます。今のところ、音で空間を作るじゃないけど、そういうのは意識的にやっています。

全曲を一つのアルバムとして、一つの作品として繋げて聴けるように
──新しいアルバムの話をしたいのですが、今回のアルバム聴いていて、音響が凄く良いなと思いました。
みらこ:今回も1st EP『nightlife』と一緒で、京都のmusic studio SIMPOの荻野真也さんにエンジニアをお願いして、音作りをみんなで試行錯誤してやりました。例えばレンジが広く聴こえるようにして、広い空間で音を録っているみたいな印象に聴こえるようにしました。あとサウンドとか作るうえで狭い世界観の曲にならないようにする、みたいなことは考えました。
──「狭い世界観」と仰いましたが、最後の「Path of the Moonlit Night」はこれまでの揺らぎから考えると、凄く長い曲じゃないですか。10分超えていますし。なぜこれをやろうと思ったのですか。
みらこ:長い曲が作りたいと思っていて。もともと、1年ぐらい前からやっていた曲ですが、その頃は歌も違うし、ギターもボリューム奏法(ボリュームで音強を絞って電気的にアタック音が鳴らない状態でピッキングした直後に、ボリュームを解放してクレッシェンドさせる演奏方法)とか使っていなくて、コードも微妙に違っていたんです。それを編集して、展開を「ここの部分でどのくらい盛り上がるのか?」とか、場面、場面で考えたりしたら、最終的に11分になった感じです。
──で、その前の曲「Unreachable」では街中の雑踏音とかも使っていますね。
みらこ:環境音は前のEPの「AO.」に水の音が入っているんですが、音楽の一部として入れていたので聴いてもあまりわからないようにしています。でも今回は“生活の中に揺らぎを存在させたい”というのがあって、日常的な環境音を曲の繋ぎなどに利用しました。
──「Unreachable」と「Path of the Moonlit Night」の2曲は環境音でつながれているので、まるで一続きの曲みたいになっていますよね。さらには「Path of the Moonlit Night」の終盤で、1曲目の「B/C」のフレーズが出てきて、まるで円環構造みたいな形で終わるので、アルバム全体が1つの長い曲のように思いました。
みらこ:「Path of the Moonlit Night」と「B/C」がもともと一緒の曲というわけではないのですが、作っていく過程で「B/C」冒頭のギターのフレーズを「Path of the Moonlit Night」の中で使い、関連性を持たして最初にループするように作りました。今回は全曲を一つの作品とて繋げて聴けるようにしようと最初から考えていて。それに音楽を繋げる意識はピンク・フロイドやボノボを意識はしました。例えばボノボは同じコードで全く別の曲にしたり、さらに曲間をつなぐところに影響を受けていますね。
──ピンク・フロイドやボノボ以外でしたら、今回のアルバムを作るにあたって参考にした音楽はありますか。
みらこ:ボン・イヴェールとかミステリー・ジェッツは参考にしました。それに曲の展開だと一番参考にしたのはシガー・ロスですかね。あと音作りだとエイフェックス・ツインとかも参考にしました。
──いま話されたアーティストやバンドって、シューゲイズは無縁ですよね。
みらこ:そもそもマイブラは好きでしたけど、めちゃくちゃ聴きこんで模倣していたわけではないし、ロールモデルみたいなバンドは揺らぎには、ほぼなくって。それにメンバー全員の音楽背景が違うので、それを毎回寄せ集めて、パズルのピースをはめているので。だから全然シューゲイザーと関係ないバンドを参考にしたりします。
──1st シングル「bedside」が再録されていますが、なぜもう一度やろうと思ったのですか。
みらこ:前のミックスが今の揺らぎには若干合っていないというのと、現在のメンバーで録りたいというのもあって、録り直ししました。
──さきほど、「今の揺らぎ」と話されましたが、今と前の揺らぎの違いって何ですか。
みらこ:ギタリストが変わったのが一番大きいですね。前のギタリストのユウカはギターにしっかりと可愛らしいメロディーがついていたのですが、今のギタリストのかんちゃん(G / kantaro kometani)はメロディーがついたのも弾くけど、それはピンポイントにしていて、アンビエントかつブルージーなこともやるので。音楽背景や蓄積した物が全然違うので、同じ様に弾くマネはできても、弾き癖とか、音作りとか、細かいところで差がでてきますね。それにギターが変わると、バンド全体のモチベーションやテンション、そして曲作りが全然違います。
コーラスの仕事を受けることでバンドとして多様性が出るかなと思っています
──では本作のリリースに至るまでの動きの話もしてたいのですが、去年はライヴ活動を半年以上、休止されていましたね。
みらこ:それぞれが留学だったり、病気の療養だったり、就職活動だったり、メンバー個人個人で色々やっていました。ただその期間中でも、新しいアルバムの曲作りをしたり、ネット上ではメンバーともやりとりをしていました。
──去年だと、みらこさんはYOOKsのコーラスやFaded old cityのYasuさんとのユニットNIGHTWAVEでコラボされたりしていましたよね。
みらこ:一番初めの仕事は去年公開された『ピーチガール』という映画の挿入歌で。蔦谷好位置さんから「君みたいな声の人を探していた」って言われて話が決まって。以降、お陰様でコーラスの仕事は増えましたね。
──映画を含めて、多岐にわたっていますね。
みらこ:バンドだけじゃなくてコーラスの仕事を受けていると、色んなところに行けるので勉強になります。それにコーラスの仕事を受ける事で、バンドとして多様性が出るかなと思っています。
──去年だとジャパニーズ・ブレックファストの大阪公演でゲストアクトとして出演されましたね。
みらこ:ジャパニーズ・ブレックファストはめちゃくちゃ凄かったですね。一番に思ったのはヴォーカルのオーラというか華があって、フロントマンとしての佇まいが凄かったです。
──レイジー・アイズとの共演や、台湾でのライヴというのもありました。
みらこ:そこが他のインディー・バンドとは目指して行く方向が違うところだと思っています。でも、基本的にはDAWAさん(和田貴博:FLAKE RECORDS店長)が、海外バンドのブッキングを握っているので。
──そもそもDAWAさんととは、どこで知り合ったんですか
みらこ:私たちFaded old cityとすごく仲がいいんですけど、1stシングル「bedside」を出した後に、それを置いてくれるお店を探そうと思ってて。そしたらFaded old cityのギターのYasuが「僕らFLAKE RECORDSに置いているから紹介するよ」と言われて、お店に連れて行ってもらったんですね。そこで初めてDAWAさんに会って「うちで置こうか」っていう連絡を頂いて。その後、納品に一人で行ってたんですが、当時はめちゃくちゃ恐い人だと思っていました(笑)。今では飲みに誘ってもらったり、メチャクチャ可愛がってもらって。今は私たちのパパ的な存在です。
──今回のアルバムFLAKE RECORDSからのリリースですが、それもDAWAさんから?
みらこ:そうです。前の1st EP『nightlife』の時に「今回も、お店に置いてください」って言ってFLAKE RECORDSへ持っていったんですね。それから一日も経たないうちに「次がどこからリリースするか決まってないなら、うちから出さない?」って言われて。私たちのこと、メチャクチャ気に入ってくれて、感謝ですね。
──最後に今後の展望とかありますか。
みらこ:まず私としては来年、店舗デザインの仕事に就職するんですね。だから建築も出来る音楽人になるのが目標です。実際にある空間を使って、自分の音楽を演奏したりする。そんな実体のある音楽体験が出来ればと思っています。バンドとしては去年、台湾でライヴをやったのですが、もう一回行こうと思っています。それに話は進んでないですけど、アジア何ヵ所かには行きたいと思っています。自分たちの音楽が日本で売れたら良いのですが、海外で当たればそれはそれでOKだと思っているので。どちらの人にも聴いてもらえるような音楽を作りたいですね。
【作品情報】
1.B/C |