【ライヴレビュー】club solanin vol.28 at 新栄Live & Lounge Vio

2015年3月27日 club solanin vol.28 at 新栄Live & Lounge Vio
Live Review
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2015年3月27日 club solanin vol.28 at 新栄Live & Lounge Vio
club solanin vol.28
2015年3月27日 at 新栄Live & Lounge Vio
ROTH BART BARON / tigerMos / OGA(The clubbers) / I-NiO

一方は自然の根源に身をまかせるような、他方は巨大な自然にがむしゃらにぶつかっていくような、新世代バンド2組を観てきた。アメリカでの音楽活動をへて名古屋に漂着したイケダユウスケがレミ街の荒木正比呂と結成したtigerMos。片や幼なじみの2人でアメリカ・ツアーを敢行するROTH BART BARON。彼らの共演はこれで3度目だ。

OGA(The clubbers)の大陸的な広がりを感じさせるDJから続く形で始まった、その日のROTH BART BARONはサポート3人を含む5人編成。中原鉄也が太く打ち鳴らす和太鼓のようなドラミングに、感傷的なキーボードの音色、進軍ラッパのように響き渡る2つのホーン、勇壮なコーラスを従えて、ファルセット気味に歌う三船雅也は、曲に応じてアコースティック・ギターとマンドリンを持ち替える。彼が歌う切なく美しいメロディーと、ときに野蛮にすら聴こえる伴奏の対比が強烈に胸に迫る。その一方で伝統的な唱歌をオーケストラの演奏で聴いているようでもある。

“僕らは何にだってなれる”と歌われる「CAMPFIRE」から、三船が憧れる伊福部昭の作曲した映画『ゴジラ』の音楽を連想してしまう。中原が時折叩く木琴、「春と灰」で奏でるミュージック・ソーといったアクセントから寂しさや孤独感がこみ上げてくる。“君は僕によく似ている”と三船は歌うが、すると彼もゴジラでもスーパーマンでもないのだ。管楽器隊は心地よい音を鳴らさない。むしろ空気を歪め、彼らの生き方、信念を期せず表現する。あちこち衝突していくことを肯定する。いや頭をぶつけ続けているは私の方か? 振り返れば他の客もそれぞれ独自のリズムでぎこちなく首を振っている。自発的でオリジナルな踊り。何気なく私は、じゃがたらの故・江戸アケミの言葉を思い出した。「氷河期#3」で三船はコーラスを請う。いや、ただ一緒に叫ぼうと語りかける。音楽性は全く違うがザ・ブルーハーツや尾崎豊が持っていたような生の衝動。最後の「アルミニウム」でステージから降りてマイクを通さずに叫ぶ彼らは現代日本のフォルクローレを体現していた。

“アメリカントラッド、ここ何年もの間フォークが好きでずっと聞き込んでいて、その申し子みたいなユウスケと出会えたのも非常に運がよかったし、tigerMosだけでなくレミ街の今の音楽性にも繋がった気がしますね。” 荒木正比呂(tigerMos / レミ街)

一方、イベント主催I-NiOのアンビエントなDJから綺麗に繋がってスタートしたtigerMos。過酷な自然界の象徴、イメージとしての父親に立ち向かい、いかに生き延びるかを歌っているように感じるROTH BART BARONに対して、彼らは母なる大自然と同化し、小川のせせらぎ、そよぐ風といった、鍵となる一音から連想の翼を広げていく。

アコースティク・ギターの小気味いいカッティングを皮切りに、残りのメンバー全員のハンド・クラップとバス・ドラム、重い鍵盤が加わり、体を揺らしながらファルセットで歌うイケダユウスケ。荒木正比呂はキーボードをリズム楽器のように扱い、メロディーは主にシンセサイザーで、隠し味に鍵盤ハーモニカを吹く。ドラムやパーカッションとの重層的な絡み合いから、私はダーティー・プロジェクターズのような実験的なインディー・バンドを連想した。

ベースは今回初のサポートでbud music所属、三重のインストゥルメンタル・バンドtioから下田貢。初編成とは思えない堂々としたリード・ベースに、機械的に打ち鳴らされるハンマー・ビートが加わり、アリエル・ピンクのような懐かしいニュー・ウェイヴ風シンセが歌いだす。同じフレーズの繰り返しで高揚感を生むハイ・トーン・ヴォーカルが乗ってこちらの心臓も高鳴る。また別の曲では畑を耕す鋤のようなドラムに、マラカスとピアノの響きが、収穫を狙う小鳥のさえずりをイメージさせ、まるでR.E.M.の「最高級の労働歌」。

パーカッションとドラムスの2人で分けあって叩いて突然シンバル・ソロ。メロディアスなベースがその間の空気を切り裂き、キーボードが一音一音絡んで次の曲へ突入。変拍子の連続から、初期ピンク・フロイドのようなサイケデリックな音の波を巻き起こしていく。嵐が去れば一転、クラシカルな鍵盤の音色から、ギター弾き語りへ流れ、ダンサブルなリズム隊が加わる。無駄な音は鳴らさない、各所で入っては出る、一瞬の流星のきらめきのような演奏は、万物の生々流転を表す。終いにはトム・ヨークを彷彿とさせる突拍子もないダンスを始めるイケダは、短く切った髪に無造作なあごひげを生やし、彫りの深い顔立ちがまるで修行僧だ。

しかし終演後に話しかけた際はギョロリとした瞳で大きく頷き、ひょうきんにすら見えた。ステージで見せる気迫とはそぐわない、三船の飄々として人懐っこい様とも重なる。tigerMosとROTH BART BARON、表面上の形式や既成概念、ジャンルに囚われない音楽を鳴らすこの2組から、加えて優しいユーモアを感じた。ライヴが終わるころ、厳しさと優しさが私の中で渾然一体となっていた。

tigerMos
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