【ライヴレビュー】解き放つ喜び – Helga Press Presents Groomy Saturday! vol.2
- By: 吉田 紗柚季
- カテゴリー: Live Review
- Tags: スカート, 台風クラブ, 曽我部恵一


Helga Press Presents Groomy Saturday! vol.2
2017年9月2日(土)京都 磔磔
出演:台風クラブ / 曽我部恵一 / スカート
自転車での来場が禁止されるほど満員の磔磔。開場前の物販で『初期の台風クラブ』のLPを求め列を作っていた京都のリスナー達が、トップバッター・台風クラブの三人を暖かく出迎える。お恥ずかしながら筆者は初見であった彼らのライヴ、まず目を(耳を)引いたのは、曲を追うごとにアグレッシブになる、3ピースならではの跳ね回るようなグルーヴだ。音源よりも数段野性味を感じる「相棒」のギターソロと、それに絡み合いながら弾むベースライン、「ずる休み」のパワフルなドラムのタム回しからは、彼らのバックボーンであるロックンロール由来の生々しい衝動性が感じられた。地元・京都のロックシーンと強固なつながりを持つ彼らだが、石塚が愛すべきダミ声で紡ぐその歌詞の主人公はほとんど一人ぼっちだ。シュガー・ベイブ的な曲調の「飛・び・た・い」では一人夜道をぶらつき“辿り着いたコンビニの駐車場でゲロ”を吐くし、アッパーなマイナーチューン「台風銀座」のサビは“ちっとも面白ない/上手に踊れない/まっすぐ帰れない/ぐっすり眠れない”とやさぐれ全開。だがその日常に根付いた感情こそが、ライヴではなおのこと観客のテンションを上げる。最後には曽我部恵一が登場し、ともに「御機嫌いかが」を披露。終始和気あいあいと盛り上がる観客たちの歓声は、それぞれの孤独と衝動をポップなメロディに乗せ、メンバー三人と一緒になって解放するかのような爽快感に満ちていた。

初期の台風クラブ
Mastard Records, 2017年8月23日
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一旦2階に引っ込んでから、アコギを抱えて一人再登場した曽我部。ちょうど25年前の当日にリリースされたという「今日を生きよう」からはじめ、「あじさい」、「LOVE-SICK」などフォーキーな楽曲たちを古今問わず披露。合間合間のMCで昔話や時事ネタ、家族のことなど他愛のないトークを挟み、観客を和やかな笑いに誘う。しかしある時、そこからするりと「満員電車が走る」の歌い出しにつなげた時などは、会場全体がさっとセンチメンタルに静まり返ったのがわかった。観客全員をめいめいが秘める孤独へと引きずり込む、曽我部の歌い手としての力強さを身をもって感じた瞬間だった。そして、その後に叫ばれる“ハレルヤ!エブリデイ”(「キラキラ!」)の力強さ、頼もしさよ。最後は会場の空気を優しくほぐすかのような「コーヒーと恋愛」で締める。緩急に満ちた曽我部の歌声とフォークギターは終始、観客全員が日々抱いているであろうやるせない孤独、やりどころのない衝動を、少しずつすくい上げて解き放つような懐の深さをたたえていたのだった。
フルのバンドメンバー5人で登場したスカートは、意外にも初の磔磔にしてトリでの出演となった。Mikikiの対談で石塚が思い入れを語った「ハル」から始まりグッときたのもつかの間、「ストーリー」、「返信」、そしてやけに歌に熱の入った「おばけのピアノ」と、普段と趣向を変えキャリア順に並べたセットリストを矢継ぎ早に繰り出していく。メジャーデビュー発表後初の関西ライヴともあって、あたたかな祝福ムードにかすかに緊張感が入り交じっている会場。そんななか中盤のMCで、二組と同じステージに立てる喜びを語りつつ「今日はとても気持ちが入っています」と意気込む澤部の姿が印象的だった。澤部の衝動で畳み掛けるような歌い回しと掻き鳴らされるトレードマークのリッケンバッカー、それらに呼応するようにグルーヴの波に乗るボンゴやエレピの音が心地いい。ポップバンドの呼び名で通るスカートだが、ライヴでのバンドサウンドのダイナミズムはロックバンド顔負けだ。そして多くの観客が期待したであろう新曲、「視界良好」のこれまでより一層の強度を持ったメロディラインや、「ランプトン」の孤独の香り漂う叙情的な歌詞からは、これからより広いところで人々に寄り添うポップソングとしての貫禄と懐の深さが感じられた。
暑さの中にもわずかに秋の匂いが混ざりはじめたこの日、使い込まれた木造家屋で鳴らされた三通りのポップソング。それらはいずれも日常の暮らしと地続きで、孤独を孤独のまま包み込む包容力をもち、またそのギターやバンドサウンドは、やりどころのない衝動を楽しく解き放つための偉大な感情の容れ物でもあった。前述の澤部をはじめ三者はきっと、そんな互いのポップ・ミュージックのあり方に強いシンパシーを感じたのではないだろうか。もちろん我々観客もそれに感応していて、日々の孤独を音楽で解き放つ幸せを筆者は久方ぶりに噛みしめたのだった。誰ひとり置き去りにしない相思相愛のポップソングの底力が、あの夜の磔磔には確かに満ち満ちていた。

From Here To Another Place
Helga Press, 2016年
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