【ライヴレビュー】自分の心と向き合い、元気をもらった一日 – MINAMI WHEEL 10月12日
- By: 杢谷 栄里
- カテゴリー: Live Review
- Tags: HAPPY, KING BROTHERS, MINAMI WHEEL, TAMTAM, 葉山久瑠実


社会人3年目ともなると、なんとなく仕事もうまくいかなくて人間関係もなんだか微妙、極めつけには失恋。折角の10月の3連休の中日、ついてない今日この頃だけど、いろいろなライヴを見ながら騒ぐのにはもってこいの日だ。
10月の3連休、大阪ミナミでは、FM802が主催する〈MINAMI WHEEL〉(以下、ミナホ)
というライヴ・サーキット・イベントが開催される。会場はアメリカ村を中心に、西はおしゃれな南堀江、東は飲み屋街が広がる東心斎橋まで広域に渡る。このような中をお揃いのパスを首から下げたお客さんが昼過ぎから夜の21時過ぎまで、音楽を求めて歩き回る姿はミナホの風物詩の一つである。
パス交換場所のBIG STEPは、必ずミナホのお客さんが立ち寄るものだから、その前ではこれから出演するバンドがチラシや音源を配っている。そこをすり抜けてBIG CATに上る。ここはミナホの会場となっているライヴハウスの中でも最大の1000人を誇るキャパシティを持っている、いわばメイン・ステージのようなものだ。
階段まで伸びる列、かかる入場規制、なんとか入れても身動きが取れない人口密度の中、最初に見たのは京都府綾部市のHAPPY。音源ではまるでサイケデリック期ビートルズのような、やさしくも力強い歌声を軽快なリズムとさわやかなギターに乗せて、その上には自由自在に行きかうシンセを飛ばす。「Don’t Worry, You Will Be Alright」(「Time Will Go On」)とか「Can’t You See The Right?」(「Cycle of Life」)という、聞いている人を励ます歌詞も相まって、元気が出るバンドである。私の場合、元気が出すぎてHAPPYの音源を聞いているときは、通勤時間が5分早く短縮されたりなんかする。当然のことながら、期待度は高い。どんなにわくわくさせてくれるようなライヴを見せてくれるのだろうと。……が、広いBIG CATの会場と満員御礼により音が人に吸収されたこともあり、音が客席後方まで響いてこず、ドラム、ギター、ベース、シンセの音が一体化して空間を埋めきれていなかった。音源では、厚みのある音を出していたように感じたけど、実際は、音を塗り固めているわけではないから、そう感じたのかもしれない。生演奏には限界がある。だから、PAがものすごく重要になってくるのだ。綾部市の5人組は、今までも2013年のフレーミング・リップス来日時のOAや2014年サマソニ東京でのSONIC STAGEと、キャパシティの大きなステージを踏んでいる。今までの5人だけのバンド・HAPPYからチーム・HAPPYへと変貌を遂げていくターニング・ポイントにいるのでは、と感じた。

HELLO
HAPPY RECORDS, 2014年
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HAPPYが終わってから、急いで向かうは、FANJI TWICE。女フィッシュマンズとか21世紀のダブバンドとか評されるTAMTAMだ。9月にリリースされたアルバム『Strange Tomorrow』では、従来の暗く、重たいサウンドを残しつつも、今までの作品よりも激しく、疾走感あふれる仕上がりとなっている。そのせいもあり、ライヴのパフォーマンスは、激しく、それも合間ってVoのkuroの動きは以前(2013年10月27日、心斎橋Club Vision)見たときよりも大きく、やりきれない日常を心から叫ぶようなボーカルは、私の心を突き刺した。そんなkuroの姿はかっこよかった。junetのベースは、セッティングを変えたかと思うくらいグル―ヴィーなリズムを奏でていた。ライヴを俯瞰してみれば、客席後方のDAB PAから電子音を飛ばしていたため、シンセ、ギター、ドラム、ベースの音がステージから飛び交い、客席は360°全方位から強烈な音に包まれた。このような音が飛び交う中においてもjunetの高揚感溢れる上昇フレーズが印象的だった。終演後、junetと話したのだが、天井が高く音が響きやすい会場、そして、ミナホというファン以外の人たちも気軽に聞きに来るライヴともあって、たくさんの人に見に来てもらえたため、バンドメンバーの気分が高まったから、高揚感溢れる演奏ができたそうだ。

Strange Tomorrow
ビクターエンタテインメント, 2014年
BUY: Amazon CD&MP3,

高まった気持ちを一旦、リセットするかのような葉山久瑠実。「バイトやめたい」「私だけを見て、嫉妬に狂う私はみっともない」と、いうような歌詞を、まるでピアノの演奏会場のようなSoap Opera Classicsで、ガーシュインの作曲した曲のような左手ではマイナー・コードを押さえつつ、右手では軽快なフレーズを奏でながら、怨念籠ったアルト・ヴォイスで歌う。最近の自分の姿を無理矢理直視させられているようで、溢れた涙は止まることなく、彼女の演奏を直視できなかった。ミナホという、お気軽に多種多様な音楽を楽しめる中であっても、葉山久瑠実は、媚びることなく、いつものように心の闇を歌い、見に来た人の心をえぐる。そして、アメ村の雑踏の中へ送り出す。

イストワール
自主制作, 2014年
BUY: 葉山久瑠実 公式サイトにて郵送販売
心が落ち着いてから、この日の最後には始まりの場所、BIG CATに戻り、兵庫県西宮市のKING BROTHERS。「生楽器には限界がある。ここから先はお前らの力が必要だ、ロックンロール……!」と、広いBIG CATで生楽器の演奏をフォローするために観客に協力を煽るマーヤ(G & Screaming)。乾いた音のするドラム、疾走感がありながらも、重くブルージィに響くギターで、観客のテンションを上げる。さらにマーヤの観客への煽り。若干、マーヤの出す声とマイクPAが合わず、マーヤが何言っているのか聞き取りづらいこともあったが、そんなのはお構いなしに片腕を上げてマーヤに応える観客。そして、恒例のマーヤの客席へのダイブ。観客に支えられながら客席を泳ぐ。顔は鼻水と汗にまみれながら。その姿はカッコイイものではなかったかもしれない。それでも、やりたいことを精一杯やる彼らは、最高にかっこよかった。最後はこれも恒例の、客席に全員降りてきての演奏。観客を「ニ・シ・ノ・ミ・ヤ!」コールで一体化させた。最後にマーヤは、「それぞれが住んでいる場所を誇りに思い、毎日、学校や会社に行け。そんな奴らが集まれば、違う場所に住んでいても同じ思いを持っている者同士、仲良くなれるだろう」と、言い、去って行った。
再び、集まるその時まで、日常へと送り出す、最高の一言だったかのように思う。

The DHDFD’s VS KING BROTHERS
メディアファクトリー, 2014年
BUY: Amazon CD,