【ライヴレビュー】唯一無二なアット・ホームさ | ボロフェスタ2017 at KBSホール
- By: マーガレット 安井
- カテゴリー: Live Review
- Tags: キュウソネコカミ


「このフェスは特殊だな。」
毎年行くたびに思う事だ。今年もボロフェスタに行ったのだが、相変わらずこのフェスが行われる3日間のKBS京都ホールの様変わりには毎年驚かされる。
「BOROFESTA」とデカデカ描かれた大看板、外の広場には飲食店やアーティストグッズが売られている屋台がゴロゴロ、そんな広場でご飯を食べたり、お酒を楽しむ観客・出演者・スタッフ。まるで高校の文化祭をそのまま持ち込んだような世界が展開し、実に緩やかな時間が流れている。そして誰もがこの雰囲気をリラックスして楽しんでいるように見える。
リラックスと言えば、私が見たアクトではキュウソネコカミがいつも以上にリラックスしていた印象をもった。大体、キュウソといえば出落ちではないけどオープニングから何か“カマす”バンドであるが、今日に至ってはメンバー自身が音だしをしつつ、むかし二条nanoでライヴをした際にキーボード乗ってダイブしたら店長に怒られたとか、おとぼけビ~バ~のライヴでメンバーのスカートが段々めくり上がって複雑だったとか、世間話をしながらそのまま「じゃあ、本番やりますか。」って言ってライヴをスタートする姿はいつもの“カマす”キュウソとは違ってリラックスしていたように見えた。ただそのあと一発目に「TOSHI-LOWさん」で上半身裸になり、観客の上を歩きながら歌うヤマサキセイヤの姿を見ながら「あ、いつものキュウソだ(笑)。」と思ったのは言うまでもないのだが。
またボロフェスタはこういったキュウソネコカミのような大型ロックフェスに出演しているバンドだけでなく、接近!UFOズやシンガロンパレードといった京都出身の若手バンドや、スチャダラパーやストロベリーパンティースといったラッパーたちも出演している。BiSHや虹のコンキスタドールといったアイドルも出る。なんならボギー家族といった本物の家族でやっているバンドもいる。更にはスタッフの手品ショーだってやる。こんな自由なラインナップが出来るフェスは世界中どこを探してもボロフェスタだけであろう。
ボロフェスタの自由さはラインナップだけではない。アクトに関してもodd eyesはステージから機材ごと観客がいるフロアに降ろしてフロアライヴをして観客を興奮させ、私の思い出は冒頭から10分程度コントを披露して観客を爆笑させていた。そして花柄ランタンは演奏中に甘酒をふるまい、ゆーきゃんは演奏中に日本酒をふるまっていた。

このような今年起きた一連の出来事を観ていくと、他のフェスに比べてボロフェスタはルールや縛りがかなり緩いし、演者たちが自由でリラックスしながら演奏/パフォーマンスしていることがわかる。そしてこの「誰もが自由で、誰もがリラックスできる場所」こそが、他のフェスにはないボロフェスタの特殊性だという事に気付かされる。では「誰もが自由で、誰もがリラックスできる場所」の根源はどこにあるのか?と考えていた時に思い出した場所がある。ボロフェスタではMCとしても活躍していた土龍氏が店長をしているライヴハウスであり、ボロフェスタのキックオフイベントであるナノボロフェスタが開催される場所、そう二条nanoだ。
民家のが並ぶ住宅街の一角にポツンと蔦が絡まったビルがある。「nano」と書かれたその場所の扉開けるとエントランスでは物販が売られたり、PAを兼任する店長の土龍氏がタバコ吸っていたり、出演するバンドマンたちが楽しそうに話をしていたりする。さらに扉を開けてライヴスペースに入ると、まるで土龍氏の御母さんなのか思わせるような妙齢の女性(実際の所は二条nanoのオーナーさんらしいが)が受付とバーカウンターを切り盛りし、カウンターにあるお皿に盛られたお菓子には「ご自由にどうぞ!」と張り紙をされている。60人程度入ると一杯になるライヴスペースではあるけど、いつ来ても人がすし詰め状態ではなく適度にお酒を飲みながら踊れて、疲れた時には壁にベンチ的なスペースも完備され座って楽しむ客もいる。
この空気に普段、心斎橋のライヴハウスに行ってる自分も最初は戸惑ったりもした。しかし慣れてしまうと居心地が良く、まるで久々に訪れた実家のような気分になってくる。とはいえ、nanoが特殊かと言えばそうではなく、これは京都のライヴハウス全体的に言える事だ。心斎橋周辺、特にアメリカ村辺りのライヴハウスが持つ“街の遊び場”のようなカジュアルな雰囲気に対して、京都のライヴスペースは“実家のような温もり”があるような場所が多い。その温もりの正体は何かと考えると、行き当たる結論として“民家に囲まれている”というのが大きいように感じる。
アメ村とは違い、京都のライヴハウスは住宅街の中にポツンとあるところが多く、二条nanoや磔磔、西院 ネガポジはその代表といったところだろうか。民家がある空間の中にライヴハウスが共存している、すなわち家が持つアット・ホーム感がライヴハウスにまで行き渡っているからこそを京都のライヴハウスは“実家のような温もり”を体感できるのではないか。だからこそ、そんなライヴハウスのもつ家庭的な空気がボロフェスタにまで直結し、観客だけでなく出演者までも自由でリラックスできるフェスというのが出来上がったように感じる。これがもし大阪でボロフェスタを開催してれば家庭的な空気を作ることなく普通の、一般的な商業フェスになったかもしれないし、そのように考えると京都にしかない空気を体現するボロフェスタは“地域フェスの理想郷”だと言ってもいいかもしれない。
毎年100名近くのボランティアによって作られるDIYフェス、ボロフェスタ。今年は台風もあって開催されるかどうか不安視もされたがトラブルなく無事に開催できたことを、この文章中でありながら「お疲れ様でした。」そして「ありがとう。」と伝えたい。来年もボロフェスタ行かないと、そんな事を地下ステージで思っていたら目の前でボランティアの学生がお味噌汁と手作りのおにぎりをPAさんに配る姿を見た。そこで改めて思った。
「ボロフェスタ、アット・ホームだねー。」

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