【レビュー】大阪の音楽の景色が変わる | アフターアワーズ『2nd demo』
- By: 峯 大貴
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: アフターアワーズ


2nd demo
遠吠えレコード, 2017年12月9日
BUY: SABOTEN MUSIC
現段階で入手出来るのはライヴ会場とオンラインショップSABOTEN MUSICのみというデモ音源作品であることをどうかご容赦。しかし来年以降、大阪の音楽の景色を変える、その潮目となりうるスリーピースバンドの胎動である本作をどうしても2017年中に紹介しておきたい。
アフターアワーズは2016年上野“エルキュール”鉄平(Dr)とドナ・タミハル(G)が当時弾き語りで活動していたショーウエムラ(Vo, Ba)をフロントマンとして誘い込む形で結成。彼らが今年大阪の一部で注目を集めたのは毎年ゴールデンウィークに行われている野外コンサート“祝春一番”でのステージ。以前から全員有志スタッフとして関わっていたが、今年は主催福岡風太のお墨付きをもらい初出演を果たした。風太から“ぶちかませ! アフターアワーズ!”と威勢良い紹介を受け、柄シャツ着たチンピラ風体の3人がごきげんなロックンロールをぶちかまし、1970年代より長らく大阪に根付いてきた祝春一番に来た観客の見る目を変え、心の扉を一気にこじ開けたのだ。(※注1)
ついに明日です。凱旋ライブなので5月の祝春一番2017の映像を。
予約無しでフラッと来てもらってもオッケーです!祝春一番凱旋ワンマンライブ
9/23(土)朝日楼(阪急石橋駅すぐ)
OPEN18:30 START19:30
¥2,000(D代別) pic.twitter.com/aep5ALUlT6— アフターアワーズ (@_after_hours_3) 2017年9月22日
本作はそんな衝撃から半年、今の彼らのレパートリーを収めた5曲入り2枚目のデモ盤。冒頭「デイジー」で魅せるオールディーズのパブロック・サウンドに、初期のTheピーズ大木温之やトータス松本を思わせるウエムラの吐き捨てるような歌…とバカに陽気な中にも“くだらないやつになりたくないんだ”と自らの姿勢と美学を示している。
続く「あべのぼるへ」は唯一の上野ボーカル曲。あべのぼるとは春一番の主催の一人であり、大阪の名物音楽プロデューサー(2010年死去)。バンド名の元となっている梅田の音楽バー“AFTER HOURS”マスターの三男であり、幼少時から春一番に出入りしていた上野の目線で捉えたあべのぼる像が描かれている。AZUMI、遠藤ミチロウ、ハンバートハンバートらが今もあべにまつわる楽曲を歌い続けているが、そんな遺伝子を受け継いでいる間違いなく最後の世代だろう。少し幼少時に戻ったような上野の真っ直ぐな声が胸を打つ。
「ニュータウン」の静かに始まる4ビートには上野がフェイバリットにあげているバンドLOST IN TIMEの「列車」を思わせるが、ウエムラの朗々とした歌に浮かんでくるのは門真から豊中へ向かう大阪モノレールの車窓から見える景色。せんちゅう(千里中央)の住宅地など大阪のベッドタウンである北摂の風景が描かれている。
「16」は踊れるロックへの志向が捻じ曲がったグルーヴに、ウエムラがアッパーに言葉をまくし立てていく。そこにタミハルのフリーキーなギターが絡んでいく様はブライアン・セッツァーを始め、ロリー・ギャラガー、スティーヴィー・レイ・ヴォーンなどが透けて見える。カッティングを基調としたタミハルのフレーズはアフター・アワーズのサウンド面の象徴的存在だ。また彼が先頭切って暴れる中でも、全体では抑制の効いた無駄のないバンド・アンサンブルにはリトル・バーリーとの共通点も見いだせる。しかしサビでのワウ・ペダルのフレーズを口で言っちゃう“ワウワウワウワウ”の部分には春一番の常連、博多のブルースマン平田達彦「フクちゃんのブルーズ」で雄叫びを挙げる犬の鳴き声を思わせるユーモアにはニヤリとしてしまう。
そして渾身のラブソング「メロディ」は“鬱陶しいだろこんな歌 酔った君の方がメロディになる”のたった2行で不器用なバンドマンの心情を描き切った名文句。2010年代におけるウルフルズ「バンザイ~好きでよかった~」ともいえるロック・バラードと言えるだろう。
全編通して祝春一番に代表される大阪で連綿と続くフォーク・ブルースの系譜を感じさせながら、3人でワイワイ言いながら突飛なギミックもなしに突き進んでいくロックンロール、という点では京都における台風クラブと同じ視座を感じる。加えて活動スタンスの面で言えば、今年京都のサーキットイベント“いつまでも世界は…”の出演や、EasycomeやAFRICA、ヘアンナケンゴ(※注2)を呼んで本作のリリースライヴを関大前TH HALLで開催するなど、基本は同世代のインディー・バンドたちとライヴハウスで切磋琢磨している。
しかし彼らの特異なのは70年代から関西に根付き、今もライヴ・バーや居酒屋などで音楽を鳴らしている祝春一番界隈の濃い音楽人・ブルースマンたちにも可愛がられ、そこにいる観客も熱狂させることが出来る点だ。東京以上に音楽性や姿勢がそれぞれではっきりしている大阪のライヴハウス。その両者がかろうじて重なっている場所をしいて挙げるならば西天満GANZ toi,toi,toiか梅田ムジカジャポニカくらいだろうか。またもちろん世代が離れているという点もありミュージシャン・スタッフ・観客がある種分断されていた大阪の音楽シーンだが、今後彼らのライヴ会場ではごちゃ混ぜになる可能性を持っているのだ。またウエムラはソロで弾き語り、上野とタミハルは大阪のバンドYMBのサポートで活動しており、こちらでも枝葉を拡げつつある。YMBはフロントマンyoshinao miyamotoが作るフォーキーかつアーバンなポップ・ソングを主軸としている大阪では稀有な存在で、こちらも今後の活動に期待がかかる。
アフターアワーズがこれまでの分断をつなぎ大阪の音楽に一つの筋を通す。大それた期待だが、彼らなら飄々としながらやってのけるだろう。
参考
- 注1:詳細なその時の衝撃は筆者によるライヴレポートに詳細にまとめております。【ライヴレビュー】祝春一番2017 – HITORI JAMBOREE~峯 大貴Tumblr~
- 注2:沖縄出身のシンガーソングライター、彼もかつて祝春一番に有志スタッフで関わっていた。