【レビュー】アパート、街へ出る | アパート『ACCESS THE AGE』
- By: 二宮 大輔
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: アパート


ACCESS THE AGE
自主制作, 2016年
BUY: ライヴ会場、100000tアローントコほか
これは「街」のアルバムだとアパートこと原田和樹くんは語る。京都で一人ユニットとして活動する彼が、宅録を彷彿とさせる前作のスタイルを捨て、同世代の音楽仲間と作り上げたのがこのセカンド・アルバムだ。その代表曲M5「歓楽街は賑やか」は、夜の街を歌った艶っぽいR&Bナンバー。弾き語りライブでは”What’s going on…”とマーヴィン・ゲイの名曲の一節を挿入していた。だが、R&Bだけが本作のサウンドというわけではない。アルバムに収録されている他の曲は、フォークやサンバ、完成に半年かけたというヒップホップまで揃っており、ただならぬ深みを感じる。
さらに奥深いのは、その歌詞の世界だ。例えばM4「プラタナス」は、幼少期の心象風景なのか、全く意味が分からない。
町内会の水曜
大人のフェンス
掴み損なったゴムボール
……
返事を待ってる
プラタナス
ちぎって
食べる
街路樹をちぎって食べるという謎の行為の答えはどこにもないが、曲全体を聞くと、幾通りも解釈可能なカフカの小説のようにも思える。
M8「カルナヴァル」に関しては、本作の裏話が紹介されている小冊子『ペペジン』第一号を読んで笑ってしまった。原田くんは「カルナヴァル」(謝肉祭)の意味を知らず、誰に尋ねられても答えられるようにネットで調べたらしい。自分で書いた歌詞の意味が分からず調べるとは、まさに天才の逸話だ。曲名でもあるカルナヴァル、そしてシエスタ、ルーティンワークと意味不明のカタカナ語を連ねるこの曲は、後半でテンポを加速させ「頷いて心躍るアヴェニュー」というリフレインに突入する。
アヴェニューにプラタナス。その場で湧きあがった感情や語感を優先させて選り抜いた言葉のようでいて、実は作品の主題である街のイメージからも離れていない。一読だけでは分かりにくい歌詞の世界も、詩人・原田の見た街の風景に思えてくる。言葉をつなぐ論理の糸が切れそうで切れないこの危うさが、本作のたまらない魅力になっている。