【レビュー】CARD『LUCKY ME』
- By: 安井 豊喜
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: CARD


LUCKY ME
STIFF SLACK, 2015年
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“心地の良い曖昧さ”。そんな言葉が似合う作品だ。サウンドや歌声、歌詞に至るまで淡い色彩で描かれた抽象画のごとく、はっきりとした形ではあらわす事が出来ない良さがにじみ出ている。その作品こそCARDの2nd アルバム『LUCKY ME』である。
中野博教と清水雅也の元LOSTAGEのギタリスト2人を中心に結成された奈良を拠点とするインディー・バンド、CARDは、そのサウンドだけをとりだせば、時にはペイヴメントを思わすオルタナティヴ・ロックを、時にはザ・スミスにも通じるようなアコースティック・タッチに彩られている。しかし、それが中野博教の柔く滑らかな歌声が入ると、音だけ茫と聴いて想像出来る参照点などどうでもよくなり、まるで白くたなびく雲海を散歩している気分にさせてくれる。それは彼らがかつて在籍していたLOSTAGEの熱く骨格をなしたロック・サウンドとは正反対であり、だからこそ、このバンドの持つ“曖昧さ”を特に強く感じたのかもしれない。では、なぜ正反対のサウンドになったのか。それは今作がリリースするまでの2年半にあるように感じる。
本作のアルバム・タイトルの由来についてメンバーである清水雅也は「俺らも色々あった」と話したという。メンバーの脱退、楽器の盗難……この2年半で様々な壁にぶつかってきた彼らが、それを乗り越えるため苦悩、葛藤した事は想像に難くない。その体験が「27」の〈わだちはもう随分消えてそれぞれの情熱を残して〉や「そう思えば」の〈いっそうどこにでも 思いは空の向こうにある〉と歌詞に現れたのかもしれない。いや、その伝えきれない歯痒い思いこそが、歌詞のみならず、本作自体をも心地良さをも孕んだオブスキュアな仕上がりへと導いたのではないだろうか。困難は狭い範囲でみれば不幸だが、その経験は血や肉となり幸福へと繋がる。だから、本作は“ハレルヤ!”と叫びたくなるほどに清々しい。不確かではあるが快然たる手応えを持ったアルバムだ。