遠藤賢司: 恋の歌
- By: 安井 豊喜
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: 湯川潮音, 遠藤賢司


恋の歌
disk union / 富士レーベル, 2014年
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2007年に還暦を迎えたが、その勢いはとどまるところを知らない天下御免の純音楽家、遠藤賢司。デビュー45周年の節目としてキャリア初、全編弾き語りにて作られたこの『恋の歌』は今まで以上に若々しく、エネルギッシュで誰もが新鮮な驚きと感動を得られる作品である。
即興的にギターとハーモニカをかき鳴らし演奏する「山葉次郎」では、「テイク1」「テイク2」と演奏内容が違うバージョンを作り、「対決! 次郎1次郎2次郎3」で今までのテイクと新たなテイクを3つ同時に演奏し、音楽を対決させている。また、ピアノのインスト曲で一部、湯川潮音がコーラスを担当した「大きな日傘と小さな日傘」では、歌詞カードにこの曲がどういう物語かという4ページに渡る台本が書いてあり、音楽を聴き、台本を読んで、各々の脳内で映画を想像して楽しめる作りになっている。さて、このように書くと新しい挑戦に目が行きがちだが、今回のアルバムでは彼の純音楽家としての原点そのものに触れた曲がある。それがタイトルにもなった「恋の歌」である。
彼が“なぜラブソングを唄うのか?”という曲なのだが、〈他人の説教をたれる前に自分に言って聞かせろよ〉〈自分めがけて自分を歌う/赤の他人 人間に伝わるか そこだけが勝負だ〉という歌詞からも彼がこれまで、どのように音楽へ取り組んできたのか窺う事が出来る。また、そんな自分も価値が揺らいだという過去を振り返りつつ、これからも自分の思う事を素直に、正直に音楽として表現していきたい。そして、還暦を過ぎても恋をしていきたい、ロマンチストでいたいと歌われていく。13分と大変長い曲ではあるが、彼の信念や価値観、過去と未来が一つの線となり濃密に表現されている。
彼の新しい挑戦と原点が一つの作品としてまとめられた『恋の歌』は未だに衰えを知らず新鮮に輝きを放ち続ける、遠藤賢司の魂そのものであり、彼の集大成と呼べる作品である。