カンガルーポー: ※※※ (こめみっつ)
- By: 森 豊和
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: カンガルーポー


※※※ (こめみっつ)
自主制作, 2014年
BUY: ライブ会場限定販売(2014.06.01〜)
快楽的なメロディーを派手に鳴らすことだけがロックの醍醐味ではない。音の隙間やズレにこそ最も豊かな音楽がある。ギター/ヴォーカルにキーボードとドラム、神戸の女性スリー・ピース、カンガルーポーは、ニュー・オーダーのようなサウンドを意図して、結果、ジョイ・ディヴィジョンになってしまったかのようだ。
感情を抑制した、童謡のような呪文のような繰り返しのメロディー。カーンと乾いた金属音を絡ませて、いぶし銀な渋い音を出すドラム。淡々と繰り返すギターのアルペジオと、昔のSF映画のテーマ曲のようなキーボードの音色は、ゆうるりと立ち上がっては不意に突進して、またつんのめるように元のペースに戻る。向井秀徳が念仏のように弾き歌うのを連想させるがZAZEN BOYSのような激しく登りつめる感覚はない。しだいに曲が展開していき高揚感のあるサビが訪れる、はずが瞬間、また元のフレーズの繰り返しに戻る。寸止めプレイのよう。しかし、だからこそ内に秘めた激しい衝動を感じる。
ドラムのあやぱんはキャンディーズや奥村チヨの音楽が好きだという。ドラムの響きは確かにアナログ・レコードの感触だ。曲の原型を作るギターのはやしはディアフーフ、特にテニスコーツとのサイド・プロジェクトのワンワンのような音楽がやりたいという。アバンギャルドだが人懐っこく和風な作風になるのも2人の感性から頷ける。しかしそれだけならもっとにぎやかな音楽になってもいいはずだ。残るキーボードのハナエはフランス・ギャルやシルヴィ・ヴァルタンのようなフレンチ・ポップが特に好きだという。しかし客から指摘されるのは「レインコーツからの影響です」とのことだった。
レインコーツ同様、彼女たちの音楽もシンプルな繰り返しの中のふとした隙間やズレに神が宿っている。聴く者に想像の余地を残した表現にこそポピュラリティーの萌芽がある。ニルヴァーナの音楽を生み出したのは、レインコーツを偏愛するカート・コヴァーンだったのだから。