現在関西音楽帖【第2回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

the oto factory『date course』
Disc Review
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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”である「現在関西音楽帖【第1回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」は、意外や意外と(と言ったら失礼だが)、特にツイッター上では反響も大きく、多くの方がki-ftを訪れることとなった。第2回目ではthe oto factory『date course』、Seiho『Collapse』、DENIMS『iggy & pops』、岡崎体育『BASIN TECHNO』、And Summer Club『HEAVY HAWAII PUNK』、SATORI『よろこびのおんがく』、THE FULL TEENZ『ハローとグッバイのマーチ』の7アーティストを取り上げる。夏〜秋フェスなどで見かける機会も多いだろう。アルバムレビューを参考にして欲しい。

the oto factory『date course』

tofubeatsやSugar’s Campaign(Avec Avec、Seiho)の活躍で盛り上がりがオーヴァーグラウンドにも達した関西ビートシーンの中で、tofubeatsやthamesbeatらを輩出した関西学院大学に在学中。シーンの末っ子的存在の4人組ポップバンド。5台のシンセとトークボックスが織りなすアーバン・リゾート感を持ったA.O.Rサウンドに真正面から取り組んでいる。2枚目のミニアルバムとなる本作では神戸で生きる若者たちの生活の一場面を極めて無機質かつ客観的に切り取っており、まるでその場のBGMで流れているFMラジオを意識したような質感だ。

冒頭「1984kHz Retro Synth FM」は番組クレジットが入り、夜に阪神高速を駆け抜けるようなドライバーズポップス。マイケル・ジャクソン「Rock With You」など80年代スタンダードR&Bへの視座も感じられる。またSugar’s Campaignのボーカルあきおを迎えた「ハーバータウン」のキャッチーなミディアムメロウネスは作品全体の間口を広げる役割を果たしながらも“FM Kiss”(神戸のFM局。Kiss FM KOBE)を歌詞に入れ込んでくるところもニクイ。最後にPARKGOLF、ikkubaru、Orlandによるリミックスが収録されているが、それぞれのスタイルで現代のアーバンポップスを鳴らしている3者である。

バンドスタイルで演奏し直しているikkubaruによる「Winter Love Song」を始め、もはやオトファク・トリビュートアルバムとも言えるほどそれぞれのスタイルに落とし込まれた再編が面白い。周辺人脈の援助も受けながら広く聴かれる仕掛けを全体に配したバランス良いポップ作品。(峯 大貴

the oto factory『date course』
the oto factory
『date course』
Rally Label, 2016年5月18日
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Seiho『Collapse』

うだるような暑さ、毎年のように記録的猛暑日、異常気象などの言葉がニュースになる季節“夏”がやってきた。大阪在住のビートメイカーSeihoの3枚目『Collapse』は、そんな真夏のサウンド・トラックとして重宝したくなる一枚だ。

彼のサウンドには「密閉感」が重要な役割を果たしてきたが、本作では〈朝霧JAM2014〉でのパフォーマンスが顕著だったように、自然音のサンプリングにより、これまでの無機質でダンス・ミュージック然とした音の中で、有機的で開放感を伴っている。チュンチュンと響く鳥の鳴き声、森を掻き分けて歩いている感のある風や葉と葉の擦れる音など、聴いているだけで熱帯雨林のムシムシした質感と、涼しげな風や水の自然音によるトリップ感覚を味わえる。

もちろんこれまで通り、彼の無機質で冷んやりした感覚を伴うエッジなサウンドはある。しかし本作には「密閉感」ではなく、街を歩いている時に感じるコンクリートによる熱の照り返しなどの身体で感じる都市の街並みが同居しているように思う。そして街を歩きながら聴くと、鳥の鳴き声などを街の景色にオーバーダビングするだけでなく、漏れ聞こえてくるいつもは鬱陶しい蝉の鳴き声も、アルバムを聴いている時だけは自分だけのサンプリング・ソースとして得意気にさせてくれる。

ライヴでお馴染みの4つ打ちトラック「plastic」や「exhibition」、心臓音のようにビートが脈打つ「Peach & Pomegranate」、森林浴的なほっこり感のある「Do Not Leave Wet」はランニングにもってこいだろうし、これらを聴きながら滝に行ってみるのも面白そうだ。聴き手に対して余白が残されており、それが僕らの好奇心を刺激する本作は、この夏随一のデトックス・ミュージックになりうる。(杉山 慧

Seiho『Collapse』
Seiho
『Collapse』
Leaving Records/Beat Records, 2016年5月18日
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DENIMS『iggy & pops』

“業の肯定”というのがある。落語家・立川談志が持論として言っていた言葉で、人間は寝ちゃいけないと思っていても寝るし、酒を飲んじゃいけないとわかっていても、ついつい飲んでしまう。不良、親不孝、世間知らず、さらには人間の心の奥の、ドロドロしたものまで肯定をするもの、それが落語だと立川談志は言う。そう考えるとDENIMSの『iggy & pops』もまた“業の肯定”なのではないだろうか。

当サイトでもレビューした1st EP『NEWTOWN』リリース後も積極的に活動し、今年は〈フジロック2016〉への出演も果たした堺市出身のバンドDENIMS。彼らが7月に出した2nd mini Album『iggy & pops』は、カントリーやブルースといったルーツ・ミュージックに、ファンクやヒップ・ホップといったエッセンスを足してできたサウンドで小気味よく、思わずビール片手に踊り出したくなる様な楽曲ばかりである。

しかし、そんな楽しいサウンドの半面、本作に登場する人物はどれもダメな人間ばかりである。定職に就かず、日銭を稼いで酒ばっかり飲んで約束は守れない。〈有名になっていつか大逆転挽回させてみせる〉といつも言いながらも、付き合っている彼女からは〈尽くしてきたのに何もしてくれないし〉と愛想尽かされる始末。しかし、そんなダメな人間に彼らは「WALKIN’」で〈初めから捨てる物など無いのに何を迷ってるの? このまま行こう〉と肯定する。

努力すれば偉くなるなら誰だって努力するが、どれだけ努力していても偉くなれない事もある。そんな時に人はお酒やギャンブルに逃げたりするが、それこそ人間だとDENIMSは言う。業の肯定する音楽、それが『iggy & pops』だ。(安井 豊喜

DENIMS『iggy & pops』
DENIMS
『iggy & pops』
OSAMI studio., 2016年7月6日発売
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岡崎体育『BASIN TECHNO』

MUSIC VIDEO」のMVで一躍話題となった同志社大学文化情報学部卒、27歳によるメジャーデビューアルバム。ということで余談ではあるが、筆者と同学部の先輩となる。文化を統計的に解析するという文理融合学部という点、また京都の中心部に位置した文系の多い今出川キャンパスではなく京都市と奈良県の間ほどにある理系学部中心の京田辺キャンパスで過ごした点は、音楽をメタ視点かつやさぐれ&斜に構えて批評し、楽曲と音ネタの隙間をいくというスタイルに影響を与えているように思える。“盆地テクノ”を標榜して放たれた全8曲。

楽曲のパートや構成を説明する歌詞の「Explain」はマキタスポーツ「十年目のプロポーズ」のTK風打ち込みverとも言えるようなJ-POP批評ソング。「MUSIC VIDEO」「家族構成」「FRIENDS」といったMVでの映像説明ありきで完成する楽曲には、陣内智則の映像ネタを思わせる。シュールな関西弁の言い回しや情景描写に対して、ベタでキャッチーなメロディ、石野卓球に影響を受けたテクノ・サウンドと緩急にクスっとしてしまう。ゴッドタン“マジ歌選手権”などお笑いの舞台でも映えそうだ。しかし終盤「スペツナズ」「エクレア」での壮大で美しいメロディを奏でる面にはしっかりミュージシャンとしてのアイデンティティも感じられる。若きトリックスターがオーヴァーグラウンドに駆け上がっている瞬間を捉えたような作品だ。(峯 大貴

岡崎体育『BASIN TECHNO』
岡崎体育
BASIN TECHNO(初回生産限定盤)
SME, 2016年
BUY: Amazon CD&MP3, タワーレコード, iTunesで見る

And Summer Club『HEAVY HAWAII PUNK』

この上なく甘酸っぱい組み合わせだ。“夏と女の子” – 彼らが曲にする果てしないテーマも、浮遊感のある脱力系の歌声と、縦横無尽に駆け巡る軽快なギターという絶妙なアンバランスさも。隣の部屋で鳴らされているかのようなローファイな音の質感は、リスナーそれぞれを思い出のあの夏にタイムスリップさせる。

彼らは2013年に結成された大阪の男女4人組バンド。生き埋めレコ―ズのコンピレーションアルバムへの参加や、今年4月に行われたシャムキャッツ〈EASY TOUR〉へのゲスト出演など、じわじわと知名度を高めてきた。「こんがりおんがく」よりリリースした待望のファーストアルバムは、クラウド・ナッシングスのような2000年代以降のUSガレージバンドの疾走感に、人懐っこいサーフギターが絡む「Sufer Girl」など、夏を感じさせる全12曲。

特筆すべきは、サイケデリック調の「Forever Ghost」だ。深くリヴァーブがかかったギターは酩酊感が強く幻想的。アルバムの中で唯一使われている打ち込みのドラムや、意味深な言葉が並ぶセンシティヴな日本語詞から、彼らの多面性を感じる珠玉の一曲といえる。

耳を踊らせるシンガロング必至のコーラスワークなど、単なる衝動性だけではないポップネスが全体を通して息づいているアルバムだ。しかし、彼らのスタイルからは計算づくのポップ職人というよりも、あくまでも無邪気に音の粒を追いかけるギターキッズ的な煌めきを感じ、胸を熱くさせられる。結成して間もない彼らが、世代を問わず多方面から愛されるバンドたる所以はそんなところにあるのではないだろうか。(稲垣 有希

And Summer Club『HEAVY HAWAII PUNK』
And Summer Club
『HEAVY HAWAII PUNK』
こんがりおんがく, 2016年7月6日
BUY: Amazon CD, タワーレコード, iTunesで見る

SATORI『よろこびのおんがく』

昨年の〈ボロフェスタ〉。地下ステージで白衣を纏った男女5人がおもちゃで遊びながら登場、「NO NO NO」から堂々とチャゲアス「YAH YAH YAH」にメドレーしシンガロングさせるふざけっぷりが楽しくてたまんなかったことをよく覚えている。

モーモールルギャバンのゲイリー・ビッチェもわずかながらに在籍していた前身バンドsolarisを経て、ダブルヴォーカルを取るハノトモ(Vo, Key)とYKO(Vo, Per, Dr)を中心に2010年に結成、京都がほこるファンキーポップバンド。本作は待望の初フルアルバムとなる。前述の「NO NO NO」、「トゥー・マッチ・ラヴ・ウィル・キル・ユー!」という既出のアッパーなポップキラーチューンも収めた全9曲、ジャクソンズを彷彿する瑞々しいポップサウンドと、“Dr.スランプ”の世界が飛び出してきたようなサブカルチャー要素の強い演出でもって期待通りワクワクが止まらない作品だ。

冒頭「愛しのゾンビ~ナ。」「モノノケでダンス」からサウンドや曲構成だけ取ればオールディーズ・ソウル&ポップス。しかしソンビやモノノケをキャラクターとして置いて茶化しまくった歌詞世界と、幼児の様なYKOとナルシスティックなハノトモの声によってナンセンスな小気味よさが醸し出されて、思わず体を揺らしてしまう。現代のceroやSuchmosとは相対するブラックミュージック加工センスなのである。一度もテンションを下げずにモータウンビートの「今夜はワン・モア・チャンス」でキュートに幕を閉じるが、30分少しの収録時間は短くて駄々をこねたくなってしまう。どうしようSATORIワンダーランドから外に出られねぇ。(峯 大貴

SATORI『よろこびのおんがく』
SATORI
『よろこびのおんがく』
Here, Play Pop!, 2016年7月6日
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THE FULL TEENZ『ハローとグッバイのマーチ』

当連載の前身であるディスクガイド『現代関西音楽帖』をリリースしたのが2014年3月。そこからたった2年だが今も関西のシーンは変容を続けている。中でも男女3ピースパンクバンドTHE FULL TEENZの登場は京都シーンで最も大きなトピックの一つだろう。主催する「生き埋めレコーズ」は関西を中心に地方の同世代パンクバンドを徒党化、自分たちはもちろんNOT WONK、And Summer Club、メシアと人人らの存在を最初に知らしめることとなった。

初音源のEP『魔法はとけた』(2014年)は8曲全8分というショートチューンの応酬で京都から全国にまで衝撃を与え、翌年〈フジロック2015〉出演までたどり着いた。彼らのサウンドやバンドの方向性は、曖昧なイメージや衝動ではなく実にロジカルに微積分を重ね、たっぷりの音楽愛・知識でもって要素を掛け合わせていくことで算出された方法論に基づいている。ショートチューンスタイルもポップかつ疾走感のブーストを目的して90年代西荻窪界隈のパンクシーンやスコットランドのインディーロックなどから着想を得たものと言えるだろう。初のフルアルバムである本作ではそんなショートチューンも方法論の1つに過ぎないというような、13曲通してパンクバンドの視座から鮮やかかつモラトリアムな青春を描いたこれまでの“フルティーンズメソッド”の集大成とも言える作品だ。

冒頭「PERFECT BLUE」はシューゲイザーサウンドの冒頭からソリッドなギターサウンドで靄を切り裂いていく。疾走感は維持しつつ色彩豊かに切り替わるメロディ展開にはWiennersからの影響も伺える会心の出来。「City Light」は珍しくシティポップ的だが、コーラスギターのセブンスコードの響きによるシーブリーズ感と伊藤祐樹(Vo, G)のモラトリアムがかった声による青さがたまらない。しかしラストの「ビートハプニング」では一転疾走感が影を潜め、歌詞も含めて青春時代の終わりを描いている。モラトリアムの終焉を告げ、次に彼らが目指す方向もちらつかせる見事な青春ドラマの幕引きだ。(峯 大貴

THE FULL TEENZ『ハローとグッバイのマーチ』
THE FULL TEENZ
『ハローとグッバイのマーチ』
SECOND ROYAL, 2016年5月26日
BUY: Amazon CD, タワーレコード
Column
杉山慧、明日はどうなるのか。〜その3〜

神戸在住、普段はCDショップ店員として働く杉山による連載企画の第三回。タイトルは神戸在住の音楽ライタ …

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