現在関西音楽帖【第3回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~

カニコーセン『True Blue』
Disc Review
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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は第3回目の更新。今回はカニコーセン『True Blue』、POST MODERN TEAM.『Be Forever Young?』、yonige『かたつむりになりたい』、AZUMI & YAKU『Poor Boy Long Way From Home』を取り上げる。「現在関西音楽帖【第1回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第2回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」と合わせて読んで頂きたい。

カニコーセン『True Blue』

カニコーセン『True Blue』
カニコーセン
True Blue
自主制作, 2016年6月発売
BUY: カニコーセンの店

兵庫県は神戸の隣に位置する加古川の在住、“播州スラッジフォーク”を自称し、唐傘かぶってサングラスかけて歌い歩く40のおっさんがおる。ベースとコーラスに奥さんを連れて、共に名乗るはカニコーセン。4枚目の本作も大量21曲収録。プロレタリア文学的というよりは現代の労働中心の生活を斜に構えた目線で捉え、アングラフォーク+マキタスポーツ的パロディセンス+蛭子能収の不条理漫画な世界観でずけずけ描いていくスタイル。マドンナの同名アルバムを思わせるジャケットにぎょっとして、冒頭「なごり雪」の“時計を気にしてる”部分を永遠ループした「なごり時計」から、「粗塩」の“共産党のポスターに鼻毛を描いて 公明党に勧誘される”の歌詞にツッコミを入れてしまったらもう虜だ。

レゲエダンサーに嫁いでジャマイカに行ってしまった妹のパンティーをダッチワイフに履かせて抱いている童貞の兄をかぐや姫のトラックに乗せてラップする「妹よ」。犬好きの男が君の顔を飼ってる犬の顔に付け替えたいと迫る「君の瞳に恋してる」ならぬ「君の家の犬の瞳に恋してる」。高田渡「生活の柄」をトラックにした小曲「年金生活の柄」、完全に歌い方は鈴木慶一を模した「シンガーソングライター」など80年代までの邦洋楽をモチーフにしながら、常軌を逸してる愛すべきバカ人間だらけの歌詞世界が聴く者の脳内を蝕んでいく。しかしその巧みな情景描写は後半「ベッドタウンブルー」「インクライン」で工場や河川敷、錆びれた市営住宅で過ごす人たちの尊い生活をしみったれながらも鮮やかに機能し妙に泣けてくる。全編通して現代の労働歌集といえる仕上がりだ。(峯 大貴

POST MODERN TEAM.『Be Forever Young?』

POST MODERN TEAM.『Be Forever Young?』
POST MODERN TEAM.
Be Forever Young?
HOLIDAY! RECORDS, 2016年8月3日発売
BUY: Amazon CD, タワーレコード, iTunesで見る

クメユウスケがSpecial Favorite Musicとして大所帯ならではの煌びやかなサウンドにて大阪から全国に打って出たら、もう一人の大阪インディーロックのトリックスター・岸田ニキはソロとしてフレキシブルな思想による新たなインディー・サウンドに臨む。NINGENCLUBなどで活動していた岸田が2012年に立ち上げたソロプロジェクトによる2ndアルバム。Ano(t)raksからのリリースだった前作から一転、今回は関西を中心に良質なインディーミュージックを扱うWeb ショップとして信頼の厚いHOLIDAY! RECORDSにレーベル化から持ちかけて、リリースに至ったところも岸田の才覚が伺える。

前作同様アノラック・ギターバンド然としたスタイルはそのままに、本作ではライヴハウスよりもクラブで映えるようなニューウェーヴ色も加わったダンスチューンの応酬だ。冒頭「I Just Wanna Make Love To You」ではタイトなサビのリフレインがTVショーのオープニングよろしく幕開けを告げ、引き継ぐ「Anorak Wednesday」がパワーポップの様相で駆け抜けたかと思いきや、「Listen In The Time」なんて80’sニューロマンティックの香りすらする耽美なメロウネス。ディスコ・アーバン・シティといったトレンドワードを軽やかに飛び越えたアプローチが小気味よくて痛快。(峯 大貴

yonige『かたつむりになりたい』

yonige『かたつむりになりたい』
yonige
かたつむりになりたい
small indies table, 2016年7月13日発売
BUY: Amazon CD, タワーレコード

大阪寝屋川を拠点とする若干20代前半のガールズバンド、昨年リリースの前作『Coming Spring』が異例のロングセラーを続ける中での2ndミニアルバム。寝屋川拠点ということはライヴハウス、寝屋川VINTAGE界隈に高校時分から出入りしていたことを想像してしまうような、北摂シーンに色濃いオルタナギターロックをセンチメンタルに鳴らしている。前作ではクリープハイプとも比較され、ささくれだった歌詞に注目が集まっていたが、本作ではグッと垢抜けた若きクールガールの視点ならではの語り口が心地よい。「あのこのゆくえ」で性別のメンドくささを雌雄同体のかたつむりを見つめて逃避するという、キュートかつ鋭い発想は20代前半の女性ならでは。終曲「トラック」はあらゆることを客観視してしまう世代がバッドエンドを覚悟しながらも颯爽と未来に向けて進む、現代のthe pillows「Funny Bunny」ともいえるミディアムロックだ。ドラムが抜け2人となった境遇こそチャットモンチーに似ているが、彼女たちは深夜の悶々とした自問自答や不満の叫びを描く。しかしダウナーに陥らずひたすらにキャッチーに響いている点がスマートで新世代のガールズロックの旗手になる予感。(峯 大貴

AZUMI & YAKU『Poor Boy Long Way From Home』

AZUMI & YAKU『Poor Boy Long Way From Home』
AZUMI & YAKU
Poor Boy Long Way From Home
Senri Records, 2016年6月12日発売
BUY: PO’BOY RECORDS, Senri Records

姫路出身、ブルースシンガーAZUMI。ギター担いで年中全国行脚の生活を送っているが今年は50代半ばにしてフジロックへの出演や、オリジナル新作・ギターインスト・ライヴ盤と大量リリースで特に脂乗りまくりの状況。本作はAZUMIがソロ作のプロデュースを手掛けるなど弟子筋とも言える、横浜のシンガーソングライター夜久一とのコラボ作。大阪のギタリスト・シンガーであるYousei Suzuki主宰のカセットレーベルSenri Recordsからのリリースだ。二人の歌とギターのみ、オリジナル曲とブルース・ソウルのスタンダードナンバーを中心に2人でやりたいことを交互に出し合い手弁当で録音していった全体的に温かい質感。夜久のオリジナル、アイリッシュ風味「火の車」での夜久の地鳴りのように空気を震わせる声はヴァン・モリソンをも思わせる。そこにAZUMIがフリーダムなエレキギターフレーズを入れていく様はまるで浪曲師と曲師の関係。AZUMIサイドとしての注目は「アンダースタンドユアメン」、これまであべのぼる・石田長生などを曲中に再降臨させイタコの如く語り・叫んできたが、今回はついにジョニー・キャッシュに憑依している。終曲である夜久オリジナル「流れ者」のコーラスでようやく二人の声が重なった時の放たれた哀愁入り混じる男臭さと迫力はたまらなく郷愁かられる名演だ。またライヴ会場や豊崎PO’BOY RECORDSで購入できるCD-R版ではザ・バンド「ロンサムスージー」のカバーなどアウトテイク4曲が追加収録されており、こちらも見逃せない。(峯 大貴

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