プププランド『Wake Up & The Light My Fire』
Disc Review
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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は第4回目の更新。今回はプププランド『Wake Up & The Light My Fire』、THE BOSSS『おとうふ』、大槻美奈『MIND』、中井大介『somewhere』、YeYe『ひと』、踊る!ディスコ室町『新しいNEWネオ室町』、V.A.『From Here To Another Place』を取り上げる。「現在関西音楽帖【第1回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第2回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第3回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」と合わせて読んで頂きたい。

プププランド『Wake Up & The Light My Fire』

プププランド『Wake Up & The Light My Fire』
プププランド
Wake Up & The Light My Fire
EXXENTRIC RECORDS, 2016年9月28日
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90年代後半・初期のくるりが種を蒔き、00年代後半・andymoriや踊ってばかりの国で開花した国産オルタナティブ・フォーク・ロックは今、関西ギターロックシーンにて息づいている。一方でこの流れはガガガSPらが起点の青春パンク、キュウソネコカミや夜の本気ダンスなどいわゆる四つ打ちロックから、現在また混沌の様相を見せる当該シーンを地続きに発展させたナチュラルな変遷ともいえる。その急先鋒となっているバンドの一つが神戸拠点の2012年結成4人組、プププランドだ。

9曲35分とタイトにまとめられた、2作目となるフルアルバム。奇をてらうことのないオーセンティックなバンドアンサンブルで、情緒的なメロディの中に影響元が横切るサウンドが小気味よい。12/8拍子ミディアムポップ「いつでも夢を」での普遍的で人懐っこい西村竜哉(Vo, G)
の歌は「1984」の小山田壮平の歌唱を彷彿する夢遊感を携えている。またくるりを自らの青春時代のロックアイコンとするかのように歌詞やフレーズを多数織り交ぜている「夏」のノスタルジーには同世代として胸に迫るものがある。このシンプルで実直なアプローチに腰を据えるにはまだ若すぎるし、今後先人たちの影響から飛び出したサウンドに期待がかかるが、いずれTeenage Fanclubやフラワーカンパニーズのような存在になりうるかも…と想像した。(峯 大貴

THE BOSSS『おとうふ』

THE BOSSS『おとうふ』
THE BOSSS
おとうふ
bravo records, 2016年9月21日
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そんなプププランドの田中隆之介(Ba)も在籍しておりバンド、プププ、愛はズボーンと共にイベント“ズボップくん”を主催している、2014年に西宮で結成された4人組THE BOSSSも自主レーベルから1stフルアルバムをリリース。オルタナティヴでスライドギターも多用した素っ頓狂なリフに、ライヴ映えするコール&レスポンス・シンガロング満載のゴキゲンな楽曲が並ぶ。冒頭「My Girl」は後期The Jamを思わせるモッズ、パンクビートと語感重視の歌詞、今の関西ギターロックシーンを象徴するようなキャッチーさを携えたチューン。一方「Ari Ari」ではNirvanaライクなざらついた音作りとダウナーサウンドと緩急の付け方も見事だ。終曲「10:30」では“完璧さ一瞬といわず鳴らすぜ旬を俺たちのシーンを”と上り調子の現状シーンをレぺゼン。その後には“like this kakkamaddafakka適当にはめていけるかい”とも歌われ、ライヴがバカに盛り上がるノルウェーのインディーポップ集団の名を引用するところには確かな音楽の素養と目指すサウンドの狙いに鋭さが伺える。タイトルのユルさも含めて全体を包む文系パーリーピーポーな質感に愛着が沸いて仕方ない。(峯 大貴

大槻美奈『MIND』

大槻美奈『MIND』
大槻美奈
MIND
自主制作, 2016年8月19日

体の傷は治りやすいが、心の傷は治りにくい。一日中苦しんだり、友達等に相談しても逆効果になる事すらあるが、そんな傷を癒してくれる特効薬がこの世には存在する。それが“時間”だ。どんな悲しみも、悩みも、時間が経てば治癒するものである。京都ではこの妙薬を日にち薬なんて言うが、そのように考えると『MIND』は日にち薬のような作品である。京都のシンガーソングライター大槻美奈の1stミニアルバムである本作は、彼女のピアノと元アシガルユースの戸渡ジョニーのドラムという二人編成でありながら、テクニカルな掛け合いと息の合ったアンサンブル、そして、バラエティ溢れる楽曲達により、彩り鮮やかで非常に充実した作品へと仕上がっている。

しかしながら、本作の最大の魅力は“悩み”について描き、更には“救い”をもたらしている点だ。彼女は「悩めるお陰で、曲を作ることが出来る」と自身のブログで語っており、そのせいか本作に登場する主人公たちは〈胸が痛くなるようなこの記憶/私は殻の中にこもった〉(M-2「忘却」)や〈七色よりも透明な宝石になりたかった〉(M-4「アミュレット」)と悩み、不安を抱えている。しかし、最後に「オト」という曲で朝の目覚めについて歌い、それまで綴られた悩みに対し“朝は来る”と私たちに伝える。そう、それはまるで苦しみも悲しみも歳月が癒してくれる日にち薬のように。心の傷への良薬となる作品、それが大槻美奈の『MIND』だ。(安井 豊喜

中井大介『somewhere』

中井大介『somewhere』
中井大介
somewhere
On The Corner Records, 2016年8月14日
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シティポップのシティってどんな街のこと? ニュアンスだけの「都会感」じゃ共感できない。シンガーソングライター中井大介による2作目ははっきりと街の風景と匂いを音と共に伝えてくれる作品だ。それは世界を股にかけるアコースティックバンド、パイレーツ・カヌーのレーベルOn The Cornerの代表としても活動しており、メンバーを支えながら旅する中で、また拠点を置く京都・大阪の街の中で紡がれた歌だからだ。幕開けを飾る「もしも屋」は京都五条にあるライヴのできる酒場。シュガー・ベイブを彷彿とする風通しのいいサウンドにのせて、寺町通りを入りもしも屋で待ち合わせする男女の姿が見えてくる。3拍子の温かなワルツ「スーフルのうた」のスーフルも京都円町にある食堂の名前だ。スティールペダルとウッドベースの音色が無常に響く「船」では何かに終われて街を離れるため船に乗り込むという絵本チックな表現も胸ざわつかせる。パイレーツ・カヌーのメンバーを始め気の知れた仲間たちと鳴らされた温かなサウンドは、ジャケットのモノクロの世界に書かれたタイトルのように、街に彩りを持たせている。(峯 大貴

YeYe『ひと』

YeYe『ひと』
YeYe
ひと
Rallye Label, 2016年7月15日
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旨いレモンには苦みがある。レモンの帽子を被り、レモンをかじっているかわいい女の子と侮るなかれ。彼女はまるでレモンのよう。本作はレモンの爽快感もありつつも、苦みも持っているのだ。

CDを再生させると、かわいらしいピアノが聞こえてくる「a girl runs」。彼女の大人っぽいエフェクトを効かせた浮遊感のあるアルトボイスに輪郭が残っているピアノ、ドラムがエッジを効かせる。イントロからいきなりパンキッシュなギターノイズが炸裂する「Broke Your Phone」は、笑い声をメロディに乗せる。いたずらをして笑っているのだろうか。楽器を廃し、手拍子をしながら、かわいらしい声でリズムを歌うイントロから始まる「close your eyes」も一筋縄では行かない。ところどころに入るギターノイズ、間奏部には乱打となる楽器陣。見た目通りのかわいい音楽を期待していると、確かにそういう面も見られるが、どこかで裏切られる。

エフェクトの効いたぼんやりとしたサウンドは爽快感を感じさせるが、ところどころで入るギターノイズは、どこかとがっている印象。そして大人っぽいアルトボイスは、前作までとは異なった深みのある、今までにはない苦みも知った、大人の女性の声である。

1作目はすべて自分で演奏し、2作目となる前作より、バックをYeYeバンド〜グル―ヴィなベースを効かせる浜田淳、音に軽快なドラムを与える妹尾リッキー、時に切なく時に楽しいキーボードを弾く田中成道〜で固める。曲作りも彼らと共に行う。YeYe自身のやりたいことが、バンドメンバーに伝わり、方向性ががっちりと決まったことが伺える3作目となる本作。作り込んだ音たちに、曲によって歌い方や音の作りを変える。やりたいことを実現するのに有効な表現の幅の広がり、まるでレモンのように、爽快感とやさしさだけではない、エッジィな部分とパンキッシュな部分を表現することを可能としたのだ。もはや、YeYeは、東心斎橋club Wonderで弾き語りをしていた頃のかわいいYeYeではない、フジロックでバンドメンバーを引き連れ、多様な表現をするアーティストなのだ。(杢谷 栄里

ディスコ室町『新しいNEWネオ室町』

踊る!ディスコ室町『新しいNEWネオ室町』
踊る!ディスコ室町
新しいNEWネオ室町
御所西RECORDS, 2016年7月20日
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京都市上京区のアパートから飛び出した男たちは今夜もパーティに繰り出す。

そこにあるのは、現実逃避のために踊り続ける虚構で固めた夢のような世界。そういえば、ロックは、問題解決をせずに踊らせ続けるものだと言っていた友人がいた。

2012年大学の仲間で結成、ミニアルバム『DISCO MUROMACHI 420』(2013年)をリリース後、メンバーチェンジを経て2015年に現在の6人組に落ち着き、昨年、全国流通盤『洛中にてファンク』(2015年)をリリース。2016年にはフジロック1日目のRookie a Go-Goに登場した、今、勢いに乗っているバンドである。

「踊る気持ちに理由などはない」(「僕らは今夜も騒々しい」)という歌詞に象徴されるように、この作品では、リスナーを理由もなく躍らせ続けさせるような意図がある。

サウンドの軸となっているのは、ファンク。グル―ヴィーなドラム、うねるベース、繰り返されるギターのフレーズで体は勝手に動き、間奏部では、ギターがエッジの効いた暴れ狂うロックを感じさせるものへと変貌する。踊り続けているリスナーのテンションを上げる。しゃがれ声のボーカルは、宵の口から明け方までひたすら踊り続けるよう、メッセージを発し続ける。「超うっせぇ」(「ODORUYO~NI」)とか「うつろう うつろう」(うつろう」)とかパーティあるあるを歌いながら。ふと、パーティをパーリーと歌っている「ピザのくち」に気付く。

パーティをパーリーと言い、そのパーリーに全力投球する人たちをパリピなんて言っている。躍らせ続けてやろう、そして自分自身も踊り続けてやろうという意思の表れが、パーティではなく、パーリーという言葉に表れているのだ。ここで歌われているパーティには、現実社会の問題解決は存在しない。自分の意思で、現実から離れて踊り続けるために存在する。現実社会の問題に対峙し続けると解決に煮詰まることがある。時には、少しの間でも自分の意思で距離を置き、考えなくさせることも必要なのだ。(杢谷 栄里

Helga Press『From Here To Another Place』

Helga Press『From Here To Another Place』
Helga Press(岡村詩野)
From Here To Another Place
Helga Press, 2016年
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本サイトki-ftの母体である“音楽ライター講座in京都”の講師である、京都在住の音楽評論家・岡村詩野が立ち上げたHelga Press。その第1弾となる京都の新星10組を取り上げたコンピレーションアルバム。2013年に拠点を東京から京都に移してから、全くどこで出会っても彼女の周りには人が集まり、遥か年下のミュージシャンたちからの信頼も厚い姉御肌(かくある私も多大なる恩恵を受けている内の一人です)。本作でもそのキュレーション力が発揮されており、印象的なのはほぼ全ての9組が新録にて臨んでいることだろう。まるで“この作品でしか出来ない曲を持ってきてください”というお題目だけを与えたよう。岡村の胸を借りてそれぞれのやりたい放題が詰まっている。シャラポア野口の暴力的なまでにジャンキーな弾き語り、Un Jardin Brunの人を食ったチープなニューウェーヴ・サウンド、西洋彦の友部正人リスペクトがさく裂した詞、そしてもはや等間隔のリズムからも解放されてしまった本日休演。ぶっ飛んでいる曲が並ぶ中で渚のベートーベンズは叙情的かつ美しくメロディを磨き上げた名曲「寂しい日が来ても」を作り上げてくるところに、彼らのしたたかさが伺える。単なる京都音楽の詰合せではなく、それぞれのタガを外して未完成ながらに個性と熱量をブーストしている点が楽しい。(峯 大貴

Column
杉山慧、明日はどうなるのか。〜その3〜

神戸在住、普段はCDショップ店員として働く杉山による連載企画の第三回。タイトルは神戸在住の音楽ライタ …

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