現在関西音楽帖【第5回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: Easycome, FouFou, In The Blue Shirt, The Josephs, 絶景クジラ

“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は第5回目の更新。今回はFouFou『Fou is this?』、In The Blue Shirt『Sensation of Blueness』、絶景クジラ『自撮り』、The Josephs『DUNE』、Easycome『風の便りをおしえて』を取り上げる。「現在関西音楽帖【第1回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第2回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第3回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」「現在関西音楽帖【第4回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~」と合わせて読んで頂きたい。
FouFou『Fou is this?』

Fou is this?
EVOL RECORDS, 2016年10月5日
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大阪北摂シーンを共に引っ張ってきた先輩格のラックライフや、毎年服部緑地野外音楽堂で行われる「宇宙フェス」を連名で主催するココロオークションなど彼らと同志と言える存在が華々しく頭角を現す中で、日常寄り添った音楽で着実に活動を続けてきたPURPLE HUMPTY。代表曲「city」は昼夜問わず騒々しいほどの都会ではないが、郊外・田舎ではない程度に栄えている茨木市や高槻市界隈で過ごす若者の生活のにおいがして、これらの街に降り立つたびに頭の中を流れ、胸をつかんで離さない。彼らの歌は幸せも悩みもひっくるめてやさしいメロディと演奏で包みこみ、感情が胸いっぱいになったら“LaLaLa”や“Woo”という擬声語に託して空にまいあげてくれる心地がするからたまらなく愛おしい。しかし今年結成10周年&メンバーチェンジ新体制にあたって改名、新たな一歩を踏み出すことを決めた。飛躍の想いを込めたバンド名も擬声語の“FouFou”に。新たな門出の挑戦となる6曲入りミニアルバムだ。
「手の鳴る方へ」の冒頭6拍子のコーラスパートこそDirty Projectorsを思わせるが、そこを抜けると井田健(Vo, G)による雄大でポップなメロディと歌がしみわたる。続く「STARS」は初めて迎える外部プロデューサーとしていしわたり淳治が参加、素朴で真摯な空気感は変わらずとも、ホーンやストリングスで装飾されたサウンドで一歩ステージの上がった印象。ラストの「spark off」は新たに加入した田中智裕(Dr)が全体を引っ張る形のソリッドなビートで、長年女性がドラムを務めてきたことによるゆるふわな印象を刷新するようなリスタートナンバーだ。奥手で不器用だった一面を、さりげなくでもしっかり持ち味をブーストした一つ垢抜けた作品。(峯 大貴)
In The Blue Shirt『Sensation of Blueness』

Sensation of Blueness
TREKKIE TRAX, 2016年10月5日
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京都の大学院生、有村崚によるプロジェクトIn The Blue Shirtが初のフィジカル作品『Sensation of Blueness』をリリースした。彼の代名詞とも言える音と戯れる彼のビッグスマイルを私が目撃したのは、いまから2年前の2014年4月、ラブリー・サマーちゃんなども出演していた神戸ダーキテンで行われたzico氏が主催するイベント〈Ruby vol.16〉だった。それから2年の間にtofubeatsのRemixアルバムに参加、心斎橋サンホールで行われた〈choice 3〉では、seiho、tofubeats、okadadaと共にラインナップされ、早い時間帯から多くの観客が詰めかけるなど、彼の注目度の高さを伺わせた。
本作は原曲のテンポを上げたヴォーカルサンプリングが多用されている。それは『キテレツ大百科』のエンディングでお馴染みの“「はじめてのチュウ」をさらに倍速にしたダンス・ミュージック”と形容できるような多幸感とトイ感があり、それが魅力となっている。オープニング・トラックである「Dressing Up」は、彼が遂にシーンに打って出るという勢いがあり、高揚感を掻き立ててくれる。ビヨンセの歌声のようにも聴こえるヴォーカルをサンプリングした「Melting」でも、エモーショナル過ぎず、あくまで軽快な印象を与える。最後の「Beagle」では、少し志向を変えてフォークトロニカになっており、緩急が哀愁を誘い、いい後味を残してくれる。今年に入ってからの活躍は目覚ましく、一つステップが上がった彼の挨拶代わりの一枚となっている。(杉山 慧)
絶景クジラ『自撮り』

自撮り
BAKURETSU RECORDS, 2016年10月5日
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密会と耳鳴り、yonige、paranoid voidなど新世代が続々飛び出す大阪のガールズ・バンドの中でも〈ROCK IN JAPAN FES〉に2年連続出演など勢いに乗る4人組。半年ぶりとなる2作目のミニアルバムは関西の先輩tricotのレーベルからリリース。前作『他撮り』は関西で完全に飽和状態の四つ打ちロックに、椎名林檎の90年代ディーヴァ感と現在のHiNDSに通じるローファイ・ガレージ要素を携え、新鮮にまとめ上げたような優等生的印象だった。本作では一転、手錠が外されたようにぶっとんだ発想かつポップミュージックとして崩壊することなくまとめ上げる才能が開花している。
いきなり「#selfilm」からスペイシーなシンセリフが全体をぐいぐい牽引、こってりとしたメロディと肉体的でエモーショナルな生ビートに引き込まれる。続く「最後に愛は勝つ」ではハードロックリフにナツコ・ポラリス(Vo, Key)が雄叫びをあげたかと思えば、突如ピコピコとヒャダインチックなアニソン的転調を経由し、サビではど直球の青春ロックをぶつけてくる。さらに「シーズンⅡ」では11PMのテーマのようなヴォイスプリセットのシンセリフからSuperflyよろしく壮大なロック・アンセムに。勢いそのままになだれ込む「最終兵器」は彼女たちの十八番の四つ打ちビートが基軸ではあるものの万華鏡のように疾走感を持ってビートを展開していく奇妙なプログレポップチューンだ。
いちいちアクの強いメロディ・リフとすでにドシっとマせた立ち振る舞いにはフジファブリック登場の衝撃の時と同じものを感じる、5曲20分のタイトだが超濃厚な作品。(峯 大貴)
The Josephs『DUNE』

DUNE
LUCK by ano(t)rack, 2016年10月5日
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大阪とフランスで活動する4人組インディロックバンド……その2地点で活動ってどういうこと? と思ったが紅一点のJulia Fujimaru(Vo)が大阪とフランスを行き来する生活のよう。全編英詞によるデビュー盤。すでに国内だけには収まらない姿勢とサウンドは、先に関西から世界に目を向けたThe fin.に続けとばかりだ。
「BACK TO THE STAGE」や「LOVE BEAT」でThrowing Muses・The Breedersなど90’sオルタナロックからの影響を感じさせながらも、「DAYTONA DRIVE」ではThe XXからのドリーミーな空間をも抱擁した隙のなさ。しかし全体の印象を方向付けているのはJulia Fujimaruのハスキーで成熟された声であり、作品全体をヴィンテージな質感に染めている。最後に収められているアコースティック音源ではより真正面から味わえるその声に胸が空き、歌を支えるシンプルなギターセクションにはウエストコースト・ロックの香りをも感じる。
活動拠点のこともあるからかライヴの本数も限られており、目を離してしまうとすぐに全世界に飛び立ってしまいそうだ。公開されている情報も限られているがYoutubeで公開されている数少ない映像、The Killers「All These Things That I’ve Done」をカジュアルに演奏する映像も素晴らしく、正に今見ておくべきバンドだろう。(峯 大貴)
Easycome『風の便りをおしえて』

風の便りをおしえて
自主制作, 2016年9月24日発売
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あれは9月だったか、南堀江にあるキャパシティ200人くらいのKnaveという小さなライヴハウスでの事。観客は僕を含めまばらな感じではあったのだが、その日、僕の目は一つのバンドに釘付けになった。20代前半の4人の若者がまだ初々しさ残るもの、とても眩く、時に艶やかなポップミュージックを奏でており、僕は一目惚れ、いや一耳惚れをしてしまった。そのバンドの名前はEasycome、2015年結成したバンドである。そして、このライヴ以降、長野の〈りんご音楽祭〉に出演し、大阪のライヴサーキットイベント〈MINAMI WHEEL 2016〉では僕が初めてEasycomeを観たライヴハウスであるKneveに、彼らの演奏を聴こうと多くの観客が押し寄せた。ちなみに2度目に彼らを観たのはその時であったのだが、その日に物販で発売されていたのがこの1stミニアルバム『風の便りをおしえて』であった。
本作で鳴らされているサウンドはフィル・スペクターやロジャー・ニコルズといった古き良き60年代アメリカン・ポップスの香りも、70年代に筒美京平が手掛けたディスコ歌謡の香りも、さらには90年代におけるピチカート・ファイヴやサニー・デイ・サービスなどの、いわゆる渋谷系のフィーリングさえも感じさせる。しかしながら、キラっと光り輝くポップなサウンド、そしてボーカルの安松千夏の可愛さの中にほんのりと漂う麗しげな歌声は、今までに上げた音楽には感じられないし、それはEasycomeというバンドが上記の音楽を昇華して、自らの音として鳴らしている結論なのであると僕は感じている。今後の大阪の、いや日本のインディー・シーンを牽引していきそうな存在になるのでは、そんな期待も感じさせる1枚である。(安井 豊喜)