現在関西音楽帖【第9回】~PICK UP NEW DISC REVIEW~
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: いかんせん花おこし, オットー, ザ・トムボーイズ, ホソボソ, 夜の本気ダンス


Dawn On
only in dreams, 2017年10月18日
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“よりフットワーク軽く、より定期的、よりリアルタイムに音源作品をレビューしようという、延長線かつスピンオフとなる企画”「現在関西音楽帖」は9回目の更新になります。今回はTHE TOMBOYS『TO THE DREAM』、8otto『Dawn On』、夜の本気ダンス『INTELLIGENCE』、いかんせん花おこし『湖のほとり』、HoSoVoSo『春が過ぎたら』を取り上げます。
THE TOMBOYS『TO THE DREAM』

TO THE DREAM
Favarit Music, 2017年8月23日発売
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THE TOMBOYSといえば可愛らしい女性の4人組で昔SCANDALのコピー・バンドをやっていたことやアニメ<けいおん>的なエピソードがあったりするバンドなのだが、3枚目となるミニ・アルバム『TO THE DREAM』の論点はそこにはなく、プロデューサーがセックス・ピストルズのグレン・マトロックが担当していることが重要だ。なぜならばモッズ・ワンピースな衣装に身を包んで鳴らされるサウンドはジャリっとした泥臭いギター、荒々しく力強いドラム・ビート、そしてあどけなさを合わせ持ったタチバナヒナの歌声。そのどれもが70年代のセックス・ピストルズがいて、ザ・ジャムがいた、あの頃のサウンドを体現しているように思えるからだ。
その理由をひも解けば彼女達が影響されたザ50回転ズに突き当たる。ザ50回転ズといえばその音楽性や出で立ちからはドクター・フィールグッドの影響が強いバンドだが、私的にはスーツ姿でR&Bを再解釈したロックンロールを鳴らすモッズ的な部分と、2~3分で荒々しく一陣の風が駆け抜けるパンク的な部分を掛け合わせをやったバンドだと思っている。当時他に並べられるバンドがなかったためパブ・ロックという言葉に押し込められてはいたが、5年早ければザ・フーと、また5年遅ければセックス・ピストルズ、またはザ・ジャムと並べて語られていたと思えて仕方がない。そのザ50回転ズから影響を受けたTHE TOMBOYSは、そう考えるとドクター・フィールグッドの曾孫的な存在だと思えるし、グレン・マトロックがプロデュースしているのは実に興味深い。なんにせよ70年代のUKの空気が、時と場所を超えてTHE TOMBOYSより鳴らされている事は覚えておく必要があるのかもしれない。(マーガレット安井)
8otto『Dawn On』

Dawn On
only in dreams, 2017年10月18日
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8ottoっていつからこんなに声が聴きやすくなったのだろう。
6年ぶりの新作となった『Dawn On』を聴いて真っ先に思ったのはそんな事だ。そもそも8ottoがメジャー・デビューをした2006年頃の私の印象はホワイト・ストライプスやザ・ストロークス等のロックンロール・リヴァイバルと呼ばれたバンドに呼応してロックンロールの持つ強靭なグルーヴと力強いギター・リフを武器にしたバンド、という印象もあったがそれ以上にマエノソノマサキが放つダウナーに呟くような歌い方の方がより印象的であった。ニルヴァーナやイギ―・ポップ、ルー・リードに感化されたような生気が無く、しかし時にエモーショナルに叫ぶ歌い方は邦楽ロックのメジャー・シーンにおいて「異端」という言葉がふさわしかったし、当時20歳の私は興奮した事を今でも覚えている。
あれから11年。それまでは一発録りをメインとしていた事もあってか、曲によってはマエノソノの歌よりもバンドのサウンドへ耳が行きがちになる事があった。特に前作『Ashes To Ashes』では荒々しく力強いサウンドが前面に出たため、その音に歌声が埋もれてしまった印象も受けてしまったのだが、今回はそうではない。プロデューサーがASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文ことGotchになった事、そしてベースとドラムを先に録音して楽曲づくりを行った事で、歌声がクリアに前面へ出ており、サウンドも交通整備が行き届いた印象を受ける。またロックンロール・リヴァイバル以降の強靭なグルーヴと力強いリフを軸にしつつも「It’s All Right」では2トーンのリズムを取り入れたり、「愛を集めて」や「SRKEEN」のようにビートをドラムと打ち込みを併用したりすることで今まで以上にアレンジが豊かでバラエティーに富んだ作品となった。
インディーにシーンを移し6年の歳月を経て生まれた『Dawn On』は8ottoの進化を感じさせる“始まり”ような作品だ。これからの8ottoの活躍が楽しみだ、と文章を締めたかったが彼らなら「赤と黒」の歌詞を引用して多分こんなことを言うに違いない。
〈洒落臭いぜ Baby 好きにやるぜ〉
(マーガレット安井)
夜の本気ダンス『INTELLIGENCE』

INTELLIGENCE
Getting Better, 2017年10月11日発売
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アニメ・ドラマの主題歌も務めるようになり、ロックフェスでも中核をなす存在としてひっぱりだこの彼ら。とはいえそもそもロックフェスは2014年頃彼らが頭角を表した際に、当時からすでに死に体になりかけていた四つ打ちの踊れるロックをthe telephonesやサカナクションに代わってバトンを握らせたという意味で功罪もあるのだ。またこれ以上にないほど名が体を表すバンド名が今後の発展においては、音楽性を狭い範囲に閉じ込め、この先重い十字架として機能してしまう時がくるかもしれないとも危惧していた。
そんな中でメジャー2ndフルアルバムとなる本作はインディー時代から通じて初めてアルバムタイトルから“DANCE”を外したことが象徴的なように、あくまでロックの申し子であることにこだわり、ダンスの奴隷から脱走を宣言するような作品だ。中でも「Eve」ではこれまでよりもグッとBPMを落としヘヴィにリフを乗せ、米田貴紀(Vo,G)は“だんだん君は僕を忘れてくLOVEもROCKも/伝えたいこともきっと変わってく”と自分で尻に火をつけながら“Everythnig is all right”と何度も全肯定を叫ぶ様にその姿勢が表れている。一方それが最もサウンドに結実しているのは「Bye Bye My Sadness」。ネオロカビリー調のシャッフルビートからブリッジで8ビートになだれ込むが、2番ではさらにテンションを加えてどんどん展開しアウトロで“I Love 69!!”と合唱する、複数の楽曲のポップな部分を凝縮したような新機軸であり大名曲。また「Heart Beat」は演奏の中心に初めてアコースティックギターを持ってきているのも新鮮な響きだし、「Weekender」ではジョイ・ディビジョン~ニューオーダーを如実に想起させるなど、ビートや各楽器のフレーズを“踊れるロック”という縛りから解放しつつ、全体的にはストーン・ローゼズ、フランツ・フェルディナンド、クラクソンズといった主に90年代以降のブリティッシュ・ロックの王道からの影響をより率直に示している。
この変化の要因はバンド全体のアンサンブルの核としてアルバムとしては本作からの参加である西田一紀(G)による器用なギターリフが担っている部分が大きい。元々神戸のインディーロックバンドDAILY LOO(2015年に解散)で活動していたこともあり、よりルーツを感じさせる方向に新たな風を吹かせている。また自分たちの音楽の役割について視点の規模が広がり、バックボーンに触れてもらう導線を丁寧に提示することで、これまでの聴衆を置いていかずに新たな音楽体験へ啓蒙することに意識を置くようになったとも言える。しかし正面突破のキャッチーなサビとそもそもフィジカルなグルーヴを持った声である米田の歌によるカタルシスにはやっぱり無意識に体が動いてしまう。夜の本気ダンスの踊れるロックとは、四つ打ちのビートに代表される記号的なものでも、能動的にバカ騒ぎすることが目的なのでもなく、どうやっても後からついて逃れられないものなのだ。だから夜の本気ダンスに告ぐ“もう踊れる準備をする必要がありますか?”。(峯 大貴)
いかんせん花おこし『湖のほとり』

湖のほとり
ギューンカセット, 2017年10月27日発売
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前回取り上げた黒岩あすか『晩安』に続いてギューンカセットから名盤が続く。大阪のサイケ・フォークバンドいかんせん花おこし。ギューン主宰の須原敬三率いる他力本願寺のギターでもある長濱礼香(Vo,G)を中心に2012年結成され、数度のメンバー変遷・休止期間もありつつ3年ぶりの本作は2ndアルバムとなる。冒頭デヴィッド・ギルモアばりの重いギターソロから始まる「舟」には前作まで色濃かったサイケデリック、プログレの要素が見えるが、基盤は美しい歌が前面に出たアシッド・フォークと言えるだろう。長濱礼香の鼻にかかるような低体温の歌はまるで線香の煙のように薄くゆらゆら立ち上って、消えてなお香りを残していく。決して器用ではないが森田童子や金延幸子、まだリンダ・パーハクスにも連なる印象でサウンドの絶対的存在だ。一方で歌詞は“この世界はなにかあってなにもない”「舟」、“人はいつも迷いたがる”「迷路」と、普遍的な事象に対して疑問や怒りをぶつけるではなく、ただただ背を向けるような達観した視点で語られるところも本作のストレンジな空気を象徴している。
そんな歌の強さは全編通してだが、ゲスト参加のBacon森田式子によるテンション高いパワーポップなキーボードフレーズと8ビートのオルタナティブ・ロックンロールで押し通す「からっぽのうた」や、カントリー調の「旅する人」とアレンジの幅は広い。この「旅する人」などで印象的なペダルスティールは姫路拠点のバンドゑでぃまぁこんの元山ツトムによるもの。カントリーに寄りきらず少しアシッドなニュアンスを漂わせるフレーズ運びには食い合わせの良さを感じる。
またジャケットの絵を手掛けているのは山本精一。関西のうたものの血を直系で継いでいる存在とも言ってもよいだろう。今だったら昨年以降度々来日しているデヴェンドラ・バンハートと共演しても全く遜色ない!(峯 大貴)
HoSoVoSo『春が過ぎたら』

春が過ぎたら
gakuSound, 2017年11月08日
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三重県は桑名市在住のシンガーソングライターHoSoVoSoこと太田雄貴。三重県の中でも北部で愛知県に隣接している桑名、関西枠としてボーダーラインだがご容赦を。3年ぶり(全国流通は1年半前)の2ndミニ・アルバム、「ストーク」でのマリンバの導入や、「白い粉」の歌詞に顕著な俯瞰と内省を継ぎ目なく切り替えることで切なさを炙りだす描写、淡白だがしっかり体温のある太田の歌唱には、『エピソード』(2011年)までの星野源を如実に感じるし、小田和正・鈴木康博2人時代のジ・オフコース、高田渡、ハナレグミ、キセルと彼の背景を透かして見るのは容易だ。しかし特異な点は歌唱とアコースティックギターはもちろん全ての演奏が彼一人でなされていることによる箱庭的な質感と、「山にかえる」、「やまぎは」と2曲歌詞にも表出している“山”の存在及びそのふもとの町の雄大な風景が歌全体から発せられている点だ。特に「やまぎは」では山のきはに月が上る風景を織り込んでいるが、そこには高田渡「生活の柄」でいう“夜空と陸との隙間”と共通する自然風景の視点を感じるし、必ず空を見上げれば浮かんでいる存在の接点として“月”に誰かへの思いを乗せる描き方には加川良「Dの月」が思い浮かんでくる。HoSoVoSoの歌を聴いていると現在からフォーライフ~ベルウッド~URC・エレックまで、日本のフォークが一直線になって見通せる気がしてきた。(峯 大貴)