【レビュー】ムジカジャポニカでナニワのおてんば娘が放つグッドタイムミュージック達 | 前川サチコとグッドルッキングガイ『ラストステージ』

前川サチコとグッドルッキングガイ『ラストステージ』
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前川サチコとグッドルッキングガイ『ラストステージ』
前川サチコとグッドルッキングガイ
ラストステージ
SNEEKER BLUES RECORDS, 2015年
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大阪キタの中心地、梅田と天満の間、扇町公園の隣に静かに位置するライヴハウス・ムジカジャポニカ。カレーが名物なカフェバー形式のこぢんまりとしたハコではあるものの、フォーク・ブルースなどオーガニックなグッドタイムミュージックを鳴らずミュージシャン中心に構成された番組が魅力で、数少なくなった“大阪らしい”場所と言える。店主伊藤せい子はバンド夕凪でも長らく活動しており、毎年9月には服部緑地野外音楽堂でフェス〈RAINBOW HILL〉を開催するなどこの界隈の良心となっている点も大阪らしさの由縁だ。

そんなムジカジャポニカを中心に大阪のシーンで今グッドタイムミュージックを鳴らしているバンドといえば前川サチコとグッドルッキングガイだ、本作は2枚目のミニアルバムとなる。前川サチコ(Vo)・仲井信太郎(Dr)を中心として2012年に結成した6人組、ではあるがキャリアは長く、前川・仲井は原田茶飯事がフロントマンを務めていたクリームチーズオブサン(2000年~2008年)の元メンバーである。

“シティポップ”が再勃興し、またその乱用に危うさを感じさせるワードとなりつつある近年に“最新型ティンパンアレイ系シティポップスバンド”を掲げ、そのややこしさを単純化して気前よく引き受けてしまう思い切りの良さと天性の明るさが本作の魅力だ。フロントウーマン、前川サチコは時に上沼恵美子や大西ユカリのように関西女を出しながら、時は土岐麻子のようにソフトなポップシンガーとして、ジャズ・ソウル・スカ・レゲエ・昭和歌謡と興味の赴くままにバンドを引っ張り、スウィングしてゆく。特に原曲を引き継ぎながらもトロピカルサウンドに仕上がった「ときめきトゥナイト」、まさかのロカビリーアレンジで自らのライヴ定番曲にまでしてしまったスピッツの「ロビンソン」というJET SETからEPとしてリカットもされた2曲のカバーは前川のおてんばなサービス精神の現れだろう。

また奇妙礼太郎トラベルスウィング楽団の長山動丸、松井洋介とサヨナラバイバイズの松井洋介ら同世代の多彩なゲストも目を見張るが、中でもアコースティック・セレナーデナンバー「心に幸せのスパイスを」で神戸のSSWでリーテソンとデュエットしている点は最大のハイライトであろう。2009年より自らのバンド港町コンボやパイレーツ・カヌーとのコラボで冒頭のムジカを始め関西を中心にすでに実力を重ねている彼だが、本作がおそらく全国流通で初の音源ではないだろうか。とびっきり甘くまろやかな声で存在感を放っている。

まだ2枚目の作品といえど奇妙礼太郎、サンデーカミデ、韻シスト、BAGDAD CAFE THE trench townらと共に2000年前後に各々活動を開始し、紆余曲折を経て今の形となり確かな歌心を持ってムジカのステージに立つ彼女たち。そんな大阪シーン中堅どころの安定感ある実力と自信がドンと出た作品だ。

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