【レビュー】出せば売れる!“ライヴ・アルバム”というトレンドを作った怪作 | ピーター・フランプトン『フランプトン・カムズ・アライヴ!』
- By: 山田 慎
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: 1976年の音楽, Peter Frampton


フランプトン・カムズ・アライヴ!
A&M records, 1976年
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美しい顔立ちにウェーブがかったロングヘア。スマートな出で立ちで女性の心をつかみ、圧倒的なアイドル・ミュージシャンとして地位を確立。さらには高校時代にデビッド・ボウイとギターを弾き、スティーヴ・マリオットとハンブル・パイを結成し、その後はジョージ・ハリスンの作品にギタリストとして参加。世間からも音楽家からも溺愛された中、全米ツアーを敢行し、選りすぐりのテイクを収めた2枚組のライヴ・アルバム『フランプトン・カムズ・アライヴ!』は、1976年を代表するどころか、”ライヴを録音して販売すれば売れる”というトレンドを作った怪物盤だ。
もちろん、1976年以前にもライヴ・アルバムは存在していた。例えばジャズ界隈であれば更に顕著で、アート・ブレイキー、ソニー・ロリンズ、ドナルド・バードなどの作品は1950年代から流行だったと言えよう。ライヴ・アルバムはアドリブが入っていて原曲と異なるだとか、パッケージの中に演奏写真が入っているとか、MCも録音しているといった、その場の雰囲気を閉じ込めたことが最大の特徴。疾走感や臨場感という意味において、スタジオ・アルバムを凌駕するものがある。
50年代から劇的に変化したことと言えば、ライヴの巨大化だ。小さなバーなどで行われていたジャズの録音からは考えられないほどに、ロックの会場は大規模な物だった。ウッドストック・フェスティバルや、この時期におけるローリング・ストーンズのライヴがよく表している。フランプトンの全米ツアーは、ニューヨーク州ロングアイランドやニューヨーク州立大学プラッツバーグ校で行われ、録音された。本作を再生すると、規模の大きさがよく分かる。主役の登場を待ちわび、フェードインしてくる観客の歓声と拍手、オープニングのMCでステージに呼び込まれるフランプトン・バンド。”スタジアム・ロック”の幕開けである。
また、録音技術の向上や、ライヴ盤を商品として販売するための高い意識も本作から感じ取れる。例えば、レッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスなどを担当したエディ・クレイマーなどのプロ中のプロがレコーディング・エンジニアとして参加。楽器の音量はそこそこに録り、ヴォーカルを際立たせたクリアな音を表現。ノイズや重低音などの耳障りな部分は目立たせず、万人受けする商業作品として成立させたところが実に興味深い。
生演奏をパッケージングした本作は全世界で1600万枚以上という驚異的な売り上げを記録。トーキングモジュレーターを大流行させた「Show Me the Way」(ダイナソーJr.もカヴァー)や、ブラックのギブソン・レスポール・カスタムを彼のトレンドマークにしたこと、78年にライヴ・アルバム『at Budokan』を爆発的にヒットさせたチープ・トリックと共に、後のパワー・ポップ勢へ大きな影響を与えるなど、音楽性にも富んだ作品だ。
今ではライヴ・アルバムは珍しくも何ともなく、誰もがCDでもDVDでも楽しめるし、さらには生演奏をストリーミングすることも極めて敷居が低くなった。あらゆる理由でライヴに参加できない人たちにとって、贅沢すぎる時代だ。ライヴ盤が売れるという前提を作った『フランプトン・カムズ・アライヴ!』の功績は計り知れない。
ちなみに……、2012年にはアルバム再現ライヴも行われている。若かりし頃の容姿からは程遠いおじいちゃんになったフランプトンであるが、2014年にリリースしたバレエ劇用作品『Hummingbird in a Box』ではディープかつ色艶のあるギター・プレイを披露。1976年に活躍したミュージシャンが消えゆく中、音楽的には円熟期を迎え、現役を突っ走っている。売上やルックスなどの外見を全く気にせず、我が道を行くピーター・フランプトンに、今こそ幸あれ!