ふぇのたす: 胸キュン’14
- By: 富樫 重太
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: ふぇのたす


胸キュン’14
ユニバーサルミュージック, 2014年
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80年代ニューウェーブサウンドを基調とし、チープな打ち込みサウンドに“すしすししゃりなしさしみ すしすししゃりなしさしみ”(M1「すしですし」)などというシュールな歌が繰り広げられる。2012年結成の3人組エレクトロポップバンド・ふぇのたすの2ndアルバムが、とてもかわいい。
バンドのアイコンとなるのはゆるくてキュートな歌声とルックスを持つ、みこ(Vo)。実は神戸で育ったという彼女。“大失恋、することもできなくていやいや”(M3「有名少女」)などというガーリーな詞やアルバム名からも、彼女がバンドの象徴的存在なのは明白だ。一方で、それを際立たせるのが作曲と作詞を務めるヤマモト(G,syn)。ふぇのたす結成前に澤(per)と共に組んでいたphenomenonというバンドはギターロック寄りだったが、みこをボーカルに迎えたことでポップな電子音を全面に出し始めた。ふぇのたすをブレイクさせた仕掛け役と言える。本作もギターロックの疾走感とは程遠く、のどかさを強調した楽曲が並び、みこの歌声を支えている印象を受ける。
彼らの音楽や関係性を見ていると、2007年、初音ミクの登場直後の作品群を思い出す。ボーカロイドの発売によって今まで叶わなかった萌え声を意のままに操ることができるようになり、遊び心あふれるストーリーや、時には甘える言葉を歌わせたり、ボーカルの萌え要素やかわいさを前面に出した作品群が小さなムーブメントとなった時代があった。ふぇのたすのチープさと萌えが全面に出た楽曲を聴いていると、こうした脱力したかわいさもリスナーにくすっと笑ってしまうような癒しを与える、重要なフックとなることを認識させられる。
ロック畑の作曲家と、関西育ちのシンガーが東京で出会い、生まれたのはアイドル顔負けの萌えと、日常系のアニメを見ているかのような、ゆるさに溢れた音楽だった。そういえば、こういうバンドっていなかったなぁ。