【レビュー】終わりは始まり | リアーナ『アンチ』

リアーナ『アンチ』
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リアーナ『アンチ』
リアーナ
アンチ
Universal Music, 2016年
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我々が始まりと呼ぶものは往々にして終わりでもある。
締めくくりは始まりでもある。結末は我々の出発点なのだ。

T.S. エリオットの詩集『4つの四重奏』にある「リトル・ギディング」の最終章はこのような書き出しである。『4つの四重奏』の重要なモチーフの一つは“時間”であり、時間は直線的に流れているのではなく、過去、現在、そして未来は互いに影響し合って円環的に流れているという事が書いているのだが、そのように考えればリアーナの『アンチ』はその体現ともいえる。そう、この作品こそリアーナの“終わり”であり“始まり”なのである。

リアーナと言えばカルヴィン・ハリスやデヴィッド・ゲッタと共演した事からもわかる通り、ダンス・ミュージックを軸に置き、フェミニスト的な事を歌うR&Bディーバ、と『グッド・ガール・ゴーン・バッド』なイメージを抱いていたのは僕だけではないはずである。しかし、本作のアートワークを見れば「これが、あのリアーナのアルバム?」と思うくらい、今までとは明らかに異質な様相を呈しているのであるが、それは音楽にも表れている。

本作を聴けばヒップ・ホップやソウル・ミュージック、そしてサイケデリックといったテイストが色濃く反映されネイビー達が騒いで踊るようなトラックは皆無であり、歌詞に目を移せば「キス・イット・ベター」では喧嘩した彼氏に対して一日中キスして謝ってほしいと頼み、「ハイアー」お酒を飲んで好きな男の子に告白するか躊躇う、といった私情を投影した内容が大半を占め、今まで歌ってきた芯の強い女性像はそこには感じられない。本作から楽曲のプロデュースをやっていたスターゲイトが抜け、リアーナ自身がライティングに全面的に参加をしているため以前とは違う作風になるのも分からなくもないが、なぜここまで違うのか。

リアーナと言えば近年ユニバーサル傘下のDef Jam Recordingsを離脱し、ジェイ・Zが立ち上げたロック・ネイションと契約し、自主レーベルを立ち上げて自身の音源発売やその管理まで行っている。これから察すると、本作が意味する“アンチ”とは“過去の自分”に対してではないだろうか。2005年にデビューしてからポップ・スターとして活躍していた彼女が自立した一人のアーティストになるため、他人の歌詞でアイドル的に歌わされていた過去の自分と決別する、それが本作のテーマのように感じる。そう考えれば作風の変化や自分のプライベートを反映した歌詞、また今回「ワーク」でデビュー・アルバム以来10年ぶりに母国語であるパトワ語を用いた歌い方をした事も納得できるし、テーム・インパラの「ニュー・パーソン、セイム・オールド・ミステイクス」をカバーしているのも〈同じ過ちを繰り返してはいけない〉と言い聞かせているのかと思えてくる。

10年という歳月を経て、再び出発の地へと到着したリアーナ。これからポップ・スターではなくアーティストとしてどのような姿を私たちに見せてくれるのか、とても楽しみである。最後に彼女へ贈る言葉として「リトル・ギディング」の言葉を引用して、この文章の結びとしたい。

私たちは探求を止めないだろう。
そしてすべての探求の終わりは出発した場所に辿り着いて
その場所を初めて知ることであるだろう。

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