Split end『雨模様』

Split end『雨模様』
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Split end『雨模様』
Split end
雨模様
HOOK UP RECORDS, 2014年
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きっかけはそれぞれ、バンドに憧れを抱いた少女たちは大きなステージに立つのを夢見て楽器を手にする。そんな少女たちにとって、チャットモンチーというバンドはいつでもかっこよくて、青春を橋本絵莉子の愛くるしい歌声と共にする者も少なくない。Split endもまたそうであり、五線譜にはその系譜が色濃く反映されている。しかし聴こえてくるのは同じ奈良県のLOSTAGEを想起させるような温かいメロウなサウンド、彼女たちは聴き馴染んだ音楽を日々の中で咀嚼し、自らの音として昇華している。

高校時代に結成し、何度もメンバーの脱退を経験しながら、それでも歌い続けてきた3人も気づけば大学生。本作はそんな彼女たちの成長に寄り添ってきた音楽が年月の中で熟成されたかのようで、2000年代から連綿と続く普遍的なガールズ・ロックのエッセンスを抽出した味わい深い一枚だ。

叙情的なベース・ラインにリヴァーブが効いたクリーン・トーンのギターが絡み、立体的な音像が立ち込めるM1「レインコート」。透明感のあるコーラスが響き、リフレインするメロディーに『雨模様』の世界へと引き込まれていく。M2「銀河ステーション」はチャットモンチー「ハナノユメ」とリンクするドラムロールで出発する、銀河鉄道を片想いの女子の恋に例えた文学チックな甘酸っぱい1曲。曲中の登場人物の心情を代弁するかのように感情的に歌われるM3「夏の終わり」。紫陽花の花をめぐる、“僕”と“私”の2人の目線が交錯しながら1つに重なっていくM4「紫陽花の花を見ていた」。全4曲、すべてラヴ・ソング。ジャケ写に描かれた少女が表情を変えるように、ななみ(Vo, G)が繊細に4つの愛を歌うとその情景が浮かび上がり、どこか少女自身の物語を聴いているような心地にさせられる。

心のこもった一音一音、感受性豊かな思春期に鳴っていた音楽は形を変えてこの一枚に詰まっている。チャットモンチーは高橋久美子が脱退し、2人体制を経て4人体制で再始動したが、それらは彼女たちを憧れるSplit endの歌詞や音楽性に影響を与える。だからこそ感じたままの音が鳴るのであり、結果として生まれた変化は知らず知らずのうちに彼女たちの音楽の一部になっていく。そして他の誰かがまた彼女たちの音楽に触れる。そうやっていつの時代も音楽は絶えず歌い継がれていくのだ。

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