【クロスレビュー】tofubeats『First Album』
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: BONNIE PINK, tofubeats, 新井ひとみ, 森高千里, 神聖かまってちゃん, 藤井隆


First Album (初回完全限定生産盤)
ワーナーミュージック・ジャパン, 2014年
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帰り道のサウンドトラック
時計の針が夜の12時を回れば、神戸の街は静まり返る。仕事終わりはだいたいいつもこの時間だ。そして、いつも音楽を聴きながら帰る。本作はそんな私の帰り道のサウンドトラックだ。
市街局番078神戸在住のトラックメイカーtofubeats。メジャー1stアルバムとなる本作は、仕事終わりの何とも言い切れない複雑な感情を忘れさせてくれる。再生すると街が徐々に離れて行く情景と共に私も徐々に架空のディスコへとトリップしていく。「Poolside」や「ディスコの神様」、そして「朝が来るまで終わる事のないダンスを」、間にインストのダンストラックを挟みつつの「Don’t Stop The Music」まで、止まらぬディスコサウンドにここではない何処かに連れて行ってくれる。それはベースラインとドラムに揺られながら日々の煩悩を置いて行くようだ。
駅から神戸の坂を家に向かって1人歩いていく、周りは家の灯りがポツポツと着いていて、タクシーに追い越されるぐらい、すれ違うのはネコぐらいだ。アルバムもそれとリンクするように神戸の坂を登っていく「Way To Yamate」で一気に曲調が変わる。本作が私にとってタダ好みの一枚に終わらない訳はここからにある。自分の目の前の風景が詰まっているからだ。これを聴いていると、何も変わらない日々、毎日こんな時間まで自分は何をやっているのだろうという嫌気が差す。そして、自分の未熟さや、もどかしさを歌う「ひとり」と「20140803」での幕の閉じ方は、そんな自分を見透かされているようで落ち着く。
地方に住んでいることを憂いでしかいなかったが、tofubeatsの音楽に出会った時、自分の住んでいる街も悪くないんじゃないかと思った。地方を憂いつつもそれだけではない音楽。何か夢があっていいじゃないか。そして、目線を変えてみると案外出会いは地方にも転がっているものだ。彼の音楽はそんな事を教えてくれた。そして家に着くと、iPhoneのプレイリストから自然と『Lost Decade』が流れ出し物語が続いていく。(杉山 慧)
自らと対峙するための写真帳(アルバム)
アルバムには音楽以外に写真帳の意味もある。アルバムの写真を見ると「あの時はこうだったな」と過去の様々な思い出が甦ってくる。そういう意味ではtofubeatsの『First Album』は彼自身の過去の思い出が詰まった写真帳としてのアルバムの意味を兼ね備えた1枚なのかもしれない。
本作では多彩なアーティストとコラボしているが、歌謡曲好きでお笑いだけでなく歌手としても活躍する藤井隆、アイドルの新井ひとみや森高千里、ラッパーのPES、そして中学時代から憧れのアーティストであったBONNIE PINKと音楽のジャンルはバラバラだが、彼の愛した音楽達とリンクしている。また、「#eyezonu」の〈wifi あったらどこでも良い/インターネット繋いでバカンス〉や「ひとり」の〈機械を使わなきゃろくに 人前で歌も歌えない〉と自身を投影したような歌詞や神聖かまってちゃんのVoの子とコラボした「教えて検索」では“インターネット”について歌い、複雑なビートが絡み合う「Populuxe」は彼の好きなアイドルの曲に準えてか“ポリリズム”にて構成されている。さらに本作のリミックス曲が制作できるようインストCDも入っておりと、今の彼を作り出した過去の断片が次々とアルバムへと貼られていく。
そして、アルバムに貼られた過去の断片を眺め、最後の曲「20140803」で今まで声を変えて歌ってきた過去の彼に対して、真っ向から対峙するかのごとく〈君が一番だと思ってるものを 一生涯愛せるのかい? ゲームに良く例えるけど 本当は俺は人生を進めたい〉と今の自分の意見を肉声で投げかける。もしかすると過去の自分は面白い事を自分のペースで自由にやっていきたいと思っていたが、メジャーになりこのアルバムを作ったことで、より大物になりたい、一生音楽やって生活をしていきたい。という気持ちが芽生えてきたのかもしれない。このアルバムの次に彼がどんな1ページを刻みこむか、今からとても楽しみである。(安井 豊喜)

First Album (初回完全限定生産盤)
ワーナーミュージック・ジャパン, 2014年
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