Victory: KGSD
- By: 山本 悟士
- カテゴリー: Disc Review
- Tags: Victory


KGSD
sputniklab, 2014年
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AC/DCの名盤『Highway To Hell』をオマージュしたジャケ写が店内でひときわ異彩を放つ。にらみつけるような彼女たちの視線に思わず手が伸びた。70年代ロックの渋さと10代の若さが相まう、ほろ苦い後味がクセになるそんな一枚。そのルックスからは想像できない重厚なオールドロックを鳴らすのは佐賀県唐津市発5人組バンド、Victory。結成して7年、ロックシーンに今、一石が投じられた。
ライヴ衣装はロックTシャツ。AC/DCにレッド・ツェッペリン、エアロスミスといった名立たるバンドが一堂に会する。日本海にほど近い田舎町を出発し、地球をぐるっと一周して、エモーショナルに掻き鳴らされるその濃厚なサウンドは私の心をつかんで離さない。グランジでオルタナティヴな歪んだレスポールがニルヴァーナを想起させるM3「偽物スマイル」。“見せてる笑顔 心の底は真っ暗だよ”と綴られたダークな歌詞、揺れ動くコーラスが効いたストラトは本当は気づいてほしい心の葛藤を表現しているかのようだ。
ハードロックを彷彿させるリフが印象的なM2「I Go Everyday」。分厚いベースの重低音が道をつくり、その上を乾いたスネアドラムの「パンッ」という音が軽快に駆け抜けていく疾走感あふれるナンバー。そして表題曲「KGSD」は私立恵比寿中学「未確認中学生X」などを手がけたことでも知られる今城沙々による提供曲。AYAKI(Vo.)の感情の抑揚が楽器隊の指揮をとるように1つの物語を鮮明に描いていき、フィナーレを迎える瞬間、思わず息をのむ。70年代から現代を紡ぐかのような一音一音はどこか古めかしくも新しい。
ふとこのアルバムをセルフタイトル『Victory』と呼びたくなった。等身大すぎるほどに彼女たちの今が詰まった全5曲。自信ありげに走り出した中で感じた本音、夢だけを手に上京して来た彼女たちを見ているかのようだ。心を揺さぶられ感じたもの、それこそが彼女たちのロックである。