編集部だより -2018年6月-
- By: 関西拠点の音楽メディア/レビューサイト ki-ft(キフト)
- カテゴリー: Other
- Tags: FouFou, goensessions, mogsan, than, すばらしか, スネイル・メイル, ホソボソ, 宵待, 折坂悠太, 清水煩悩, 石川浩司, 美術館「えき」KYOTO, 見汐麻衣

杉山慧
6月のプレイリスト
雑記
《美術館「えき」KYOTO》で開催されていた『ROCK:POWER,SPIRIT&LOVE.』に行ってきました。この展示は篠山紀信や松任谷由実などが「ROCK」とは何ぞやをテーマにしたものでした。ミュージシャン以外にも写真家や映画監督などの視点から自身のルーツとROCKという言葉の意味について考えさせられる面白い展示でした。
峯大貴
6月ライヴ備忘録
5月30日(水)ひかりのほとり@代官山 晴れたら空に豆まいて
冬にわかれて(寺尾紗穂 / 伊賀航 / あだち麗三郎)、折坂悠太(合奏)
ライヴを見るのはもうすでに今年4回目の折坂さん。『ざわめき』で一歩フィールドを変えましたが、レコ発で全国を手弁当で弾き語りツアーしたことも影響しているのか歌の強さがまた一段と増した気がします。民謡、わらべ歌、浪曲から、シャンソン・スキャットも抱擁しようかの勢い。大衆音楽の未来はすぐそこに。寺尾沙穂さんの冬にわかれても飛び入りでテニスコーツ植野隆司さんによるサックスが入り一際豪華に。最後には「鳥」と「七草なつな」とお互いの曲をセッションするのも幸せな光景でした。
5月31日(木)HANGRY vol.4@下北沢BASEMENT BAR
mogsan、三つ峠、Youmentbay、Crispy Camera Club、 YAOYOROS
昨年の『月と健康』は超名盤だったmogsanお目当てに見に行きました。表題の中の「身体にいいもの食べて 元気でいてね」という優しい一行の狂おしさ、食卓とリビングが見えるポップミュージック。ライヴでも生活に立脚した景色が見えてきました。京都からのCrispy Camera Clubもよかったな~。UK仕込みでリッケンバッカーでガーン鳴らしてるのええですね。サポートギターPale Fruit稲本さんもお元気そうで。新譜めちゃめちゃ楽しみにしています。
6月3日(日)goen sessions撮影@高円寺 ビアカフェ萬感
保利太一
高円寺動画プロジェクトgoensessionsの撮影に立ち会いました。後日以下サイトにこの日の模様がアップされます。
シンガーソングライター保利太一さんのライヴをお客さんも呼んで公開収録を行いました。2015年のアルバム『ゆとり』はブルース、フォーク主体の飄々とした感じが良元優作を思わせるシンガーソングライター。しかし最近は童謡を取り入れたり中原中也の詞に曲を付けたり、よりフォーク、ブルース・シンガーのオリジンなスタイルに自然と近づいている感じがたまんなく好きです。
6月4日(月)JASMINE@渋谷LUSH
Slimcat、宵待、Walkings、THE MASHIKO、FENEC FENEC
東京初上陸、神戸の宵待をお目当てに見に行きました。I’m ready for a party! ええ感じに場にまどろんでいくグルーヴとラップ。でもまだまだ序章な気がする。シングル2枚の向こう側、これから手の内見えてくのが楽しみ。自分は彼らより1個上ですがこの世代をしっかりレペゼンしてくれんだ。
6月9日(土)かぜのなぎさ@代官山 晴れたら空に豆まいて
HoSoVoSo、chima、三浦コウジ
三重のシンガーHoSoVoSoさん見てきまし。温かい声とメロディ、飄々とした立ち振る舞い最高。いちいちくすぐり入れてくる喋りも落語家さんのような軽さがいいなぁ。そう思たら志ら乃師匠に似てる…。「白い粉」は世界一優しいドラッグミュージック、歌詞の余韻でトリップしてまう。
6月9日(土) Mikiki Pit Vol. 4@下北沢THREE
ミラーボールズ、見汐麻衣、Wanna-Gonna、東郷清丸
音楽性、拠点となる界隈、世代が少しずつ違う演者が混ざり合ってお客さんも坩堝になる現場の空気、たまんなく好きです。最後の見汐麻衣さんの弾き語りが見事に全部請け負ってる感じもむっちゃかっこよかったなぁ。
6月15日(金)稀代の変哲〜煩悩くん全国発売オメデト2マン編〜@代官山Weekend Garage Tokyo
石川浩司、清水煩悩
東京ライヴも増えてきた大阪の清水煩悩。したたかにぶっとんだ悪童の弾き語りは31歳上の石川浩司さんを泳がし、振り回されて一進一退。煩悩に連れて来られて終始出ずっぱりだった田中優至さんのサックスも入り乱れての「さよなら人類」「ブッダ常夏キリスト富士山」「シャラボンボン」最高!爆笑!
youtubeに上がっている本日休演と石川浩司さんが共演した「ごめんよの歌」を見た時も思ったけど、自分より数世代下の若手の胸にどーんとぶつかって屈託なく無茶苦茶して会場をハッピーにする石川浩司というミュージシャンの凄味に感服しました。
6月16日(土)Half Mile Beach club『Hasta La Vista』リリースパーティー@下北沢Basement Bar
KASHIF(GUITAR DJ)、beipana(DJ)、The Wisely Brothers、すばらしか、Half Mile Beach club
すばらしかのレコ初ライヴが仕事の都合で行けず、急遽シークレットアクトとして出演するタイミングに見に行きました。
6月23日(土) JACK LION 18周年〜Mashiba Special〜@茨木JACK LION
FouFou、ジャマーバンド
超久しぶりにFouFou見てきました。地元茨木とあって緊張と緩さ両面。しかしバンド再編後間もない彼ら、半分くらいは新曲。井田さんの描くライフソングはやっぱり最高。色んなアプローチを模索してる様子でしたがやっぱ打ち込みよりシンプルなバンドサウンドがええ。地元で聴く「city」は泣けたなぁ。
6月30日(土)エマージェンザ決勝@渋谷O-EAST
than(ザン)。日本のオルタナティブロック現代表と言いたくなるような凄み、桁違いのステージでした。このタイミングで見れてよかった。赤子さんのパントマイムとモダンバレエを交えたダンス、NIMAさんみたいでむっちゃかっこええなぁ。そしてしっかり優勝しちゃうんやもんなぁ。すげえ。20分弱の時間では物足りなかったのでまたライヴ見に行こう。
マーガレット安井
今月の一枚 スネイル・メイル『ラッシュ』
このコーナーは関西の作品以外で、私が好きな作品をレビューしていこうという企画。今回はUSオルタナ界の新たなるスター、スネイル・メイルの最新作を取り上げます。

2018年6月8日/マタドール・レコード
少女とカート・コバーンの魂
思い出してほしい。私たちが“オルタナ”と呼んでいた音楽を。そしてカート・コバーンの事を。
オルタナがどこからきたか、という話には興味はない。あるのは90年代以降のメタルやパンク以外のロック音楽についてだ。人はそれを、産業ロックと一線を画す“代替”という言葉を使い“オルタナ”と呼んだ。ファズの効かせた騒めくギター・サウンド。不平や不満、そして幻滅を、時にシニカルに冷笑しながら、時に声を枯らしながらリスナーへと届ける。同時代にあった産業ロックへのアンテテーゼであったオルタナは、すぐに若者の心を虜にしていき、またその流れはカート・コバーンという男をヒーローにさせた。
「Nobody dies a virgin… Life fucks us all」(綺麗なまんまで死ぬ奴はいない。人生という物が汚していくからだ。 ※訳は筆者)
カート・コバーンはこんな言葉を残したとされている。私はたまに、この時の彼の心情を考える。そしていつも同じ結論にたどり着く。それはカート・コバーンは誰よりもピュアな人間になりたがっていたのだと。彼のバンド、ニルヴァーナの代表曲「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」はカートからはデオドラントであるティーン・スピリットの匂いがする、とキャスリーン・ハンナから言われた事が由来とされている。しかし本当の所は、カート自身はティーンスピリットのような汚れなきピュアな魂を持ちたかったのではないだろうか。だから彼は音楽で自分の内心をさらけ出してきたし、産業ロックに取り込まれ神格化されたことで、誰よりも汚されたと思い自死に至ったのではと考える。そんな彼の魂を引き継いでいるアーティストは誰か、と言われれば私はこう答える。スネイル・メイルだと。
アニマル・コレクティブやビーチ・ハウス、フューチャー・アイランズなどを生んだ、アメリカはボルチモア出身の少女、スネイル・メイル。アヴリル・ラヴィーンをみてギターを始め、パラモアを見てオルタナを覚えた彼女がBandcampで最初に作品を出したのは15歳の頃。その翌年、地元のパンクレーベルであるSister Polygon RecordsからEP作品として『Habit』をリリースし、ピッチフォーク、ニューヨーク・タイムズから賞賛を集めたのは記憶に新しいところ。
今年マタドール・レコードから出た『ラッシュ』は多用されるダウンチューニング、シンプルな進行にファズを効かせたギター・サウンド、淡々と歌うかと思えば、時に張り裂けそうな胸のうちをエモーショナルに歌うその姿勢。それは私たちに90年代のオルタナティブ・ロックの憧憬を感じさせる。ただこれだけでは、彼女にカートの魂は感じなかったように思う。私がカートの魂を感じた所、それは彼女が持つピュアネスな精神である。
このアルバムで彼女は2つテーマを歌っている。ひとつは“変わらない自”、もうひとつが“何者でもない私”である。例えばその二つのテーマは本作のリード楽曲である「プリスティン」でこのように歌われる。
だって私たちは何にでもなれる
離れ離れでも
いろんな選択肢があるのに
なぜこんなつらい状態を選ぶの?
私は誰にでもなれる
だけど私はあなたに絡み取られてる
たくさんの人がいるけど
あなたは誰を思ってるの?これ以上の変化はいらない
私は今までと同じようにあなたを愛し続ける
この楽曲は、私は心変わりをしていないのに、変わってしまうあなたの話であり、言わば純愛の物語として見てとれる。それと同時にこの歌詞の〈私は誰にでもなれる〉という部分は“何者でもない私”の話だとも言える。“何者でもない私”それは言い換えれば、“開かれた可能性”だと言っても良いだろう。何者にも毒されない、無限の選択肢のなかで、自らの可能性を信じて突き進む。その姿勢は綺麗なままでありつづけたいと願った、カート・コバーンの魂と共鳴しているように感じる。
まだ19歳であるスネイル・メイル。たぶん彼女はその気になればアブリル・ラヴィーンのようなポップスターにもなれるだろう。でも彼女はそれを望んではいないし、私もそれを望んでいない。私が望むことはひとつだ。誰にも汚されず、ひたすら清らかなに自分の進むべき道へ進んでほしい。ただそれだけだ。彼女からはデオドラントじゃない、本物のティーンスピリットの香りがする。